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「あなたは何をしてらしたの？」
TY「僕は、新しい高下駄を注文しに来ました」
DY「高下駄？何のために？」
…あ、しまった。
Aさんに花魁道中のことを報告するの、忘れていた。
例のお客様をお見送りしてから、着物の準備のことにばかり気を取られ Aさんの部屋に行くことをすっかり忘れていた。
俺の曖昧な笑みに、きっとAさんは すぐ勘づいたことだろう。
俺は観念し、息を深く吐いて、
Aさんを見つめた。
TY「…昨晩お相手をしたお客様と、花魁道中を行う約束を取り決めました。その時に新しい高下駄を使用したいと思い、ここまで来たのですが… ご報告が遅れ、大変 申し訳ありません」
「あら、花魁道中を？昨晩のお客様は… 朴家の御令嬢様でいらしたかしら」
TY「はい。彼女からのご依頼で…」
「なるほど、そういうことでしたの。分かりましたわ。お客様の為にも最上の高下駄を準備なさってね」
目を細め、天女のような微笑みを見せるAさん。
隣のドヨンも、「楽しみにしてるよ、ヒョン」と
俺に微笑みかけた。
その頃、店主が俺を呼ぶ声が聞こえた。
布の準備が出来たのだろう。
それでは、失礼致します と
二人に礼をして、場を離れようとした。
その、一瞬のうちだった。
風のように、俺の耳元に
その紅い唇を寄せて
見上げる瞳は 研いだ刃物のよう。
微笑んでいるはずなのに
背筋を凍らせる。
「あとで、あたしの部屋 来なさい」
俺以外、誰にも聞こえない声で そう囁けば
また和やかな笑顔に戻り
「ほら、お行きなさい。店主様がお呼びなさってるわ」と 俺に声をかける。
ドヨンは、何の疑いも無い目で
ただただ 不思議そうに俺らのやり取りを見ていた。
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作者名：如月
| 作成日時：2021年1月11日 10時
