遊郭物語 -新都編- 伍 (ページ22)

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やがて人波が消え、静かな店内で着物の生地や髪飾りを眺める。あっという間に冬がやって来るだろうし、新しい着物を調達するのもいいかもな。

着物は好きだ。
柄や色の組み合わせで、どんな自分も演出することが出来る。

自分を飾ることが、俺の仕事。
俺に最も似合うものは何か、見極めなくてはならない。

…こんな風に真剣な目をしてると、怖がられるものなのか
近くに居た店員を不意に見上げると、なんだか怯えた顔をして目を逸らされた。

それにしても、少し見入りすぎたかな。

曲げていた腰を伸ばし、辺りを見回した。

…袖が、物陰に流れていく。

あのひとの着物の柄は、なんとなく
全て覚えている。

足が自然と向かうんだ。
言葉じゃ説明のしようが無い。

あのひとの居る場所に、俺も居るのが
それが俺の“普通”だから。

角を曲がると、仲睦まじそうに会話をしながら商品を眺めているAさんと

ドヨンの姿があった。

…二人で来ていたんだ。
Aさんは紺青色の生地を手に、ドヨンに微笑みかけている。

その様子を見るともなく眺めていれば、
不意にドヨンが振り向いて俺と目が合った。

DY「あれっ、テヨンイヒョン？」

「あら、ご機嫌よう」

TY「こんにちは。楼主様、ドヨンア」

軽く会釈をし、二人に近付く。
Aさんは穏やかな笑顔で、手に取っていた着物を俺に見せてきた。

俺も他所行きの微笑みを浮かべる。

「ドヨンに新しい着物を、と思って見て回っていたのです。ほら、此方をご覧になって。どう思います？」

TY「ドヨンによく似合いそうですね。素敵です」

DY「そんな… 僕にはまだ早すぎると思うんだけどな、こんなに高級な着物」

TY「何言ってるんだよ、お前も立派な太夫だろ？絶対に着こなせるよ」

そう言って肩をぽん、と叩くと
ドヨンは嬉しそうな顔で、照れ笑いをした。

真っ赤な紅を引き、髪をきっちりとまとめ
すらりとした立ち姿で店員と会話をする姿。
口元の黒子。

いつも通りのAさん。…楼主様だ。

……怒っては、いないだろうか。

あのあと、無理矢理過ぎたかなと
行為を強制する形になったこと、反省したんだ。

最近、どうも

自分の中に、虎のように獰猛な何かが息を潜めているように感じる。

それが怖いんだ。

…自分でも、自分を制御出来ないような気がして。

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