フラッシュバック ページ7
＊
「うまあ！ シェフ！ これは星一〇〇個ですな」
「逆に怪しいよっ」
口のまわりにソースをつけながらハンバーグをほおばる彼を見ていると、とても病んでいたとは思えない……
が、それでもふと、あたりを見回したり、忙しなく視線を彷徨わせて貧乏ゆすりをすると、それが現実、──否、進行形であることを思い知らされる
「おいしい、おいしい」
「よかった。 今日は泊まっていくの？」
左右に首を傾げて呻く彼は、以前とはまるで別人だった
いや、もとより優しくて話好きなひとではあったが、基本的にはわがままで傍若無人というにふさわしいひとだった
ひとの話は右から左だし、思いやりの気持ちは皆無だし、真夜中でも出かけたがっていた、そんなひとだったのに
「……今日は、帰る。 薬、家に忘れちゃったし、Aの前で、変な姿、見せたくないし…………」
「そっか。 じゃあ、車で送るよ。 わたしも、不安だし」
「ありがとう。 ごめんな、迷惑かけて……」
既に、処方されたという“薬”の効果が切れはじめているのか、彼は異常に瞬きをしたり、なにかに怯えるように唇を震わせたりしている
わたしはテーブルの端に置いていた車の鍵を掴んで、キヨちゃんを立たせた「もう帰ろう。 薬飲まなきゃだめなんだよね？」「ん……薬……」「うん。 すぐ送るからね」
そういって手を離すと、彼は泣きだした。 あまりにも突然のことに、わたしも固まってしまう
「歩いて帰ろうよお、手ェつなぎたい。 Aちゃん、Aちゃん。 キヨひとりやだあ」
「歩いて行ったら、時間かかっちゃうよ？ また明日もきたらいいから、ね。 今日は車で帰ろ。 わたしが送るんだし、ひとりじゃないでしょ？」
「いやだああ」
もう三〇歳になる彼が、子どものように泣きじゃくって、その場にうずくまる「みんな、みんながおれの悪口いってる……みんなおれが嫌いなんだ……っう、え」「キヨちゃんっ」
首もとを手でおさえながら、短い呼吸をくり返す彼の背をさすり、大丈夫、大丈夫と声をかける
「大丈夫だよ、キヨちゃん。 悪口なんてだれもいってない。 わたしの声聴こえる？ ……わたしの声だけ聴いて」
「あああ……」
汗と涙で乱れた彼の頬を両手ではさんで、声をかけつづける
過呼吸を起こしているのかもしれない。 病院へ電話するべきかもしれない……
でも今最優先すべきは、こんな状態の彼から眼を離さないことだ
ラッキービデオ
クッキングママ
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作者名：玲佳 | 作成日時：2020年4月4日 19時
