部分的記憶喪失のふり ページ5
シャワーを貸してもらって用意されていた服を着る。
「…あの…大きい…」
ぶっかぶかだ。手が指先しか出てない。
「…一番小さいサイズだったんだけれど…。Aは華奢ね。袖口降りましょうか。」
私の前に膝をついて曲げてくれるリザさんにされるがままポツリと呟く。
「…リザ、さん。私…邪魔じゃない？」
「？どうして？」
「あの人…怖かった。」
「…あの人…大佐のことよね。」
リザさんの問いに頷く。
「…大丈夫よ。私は貴女を放り出したりしないから。」
ポンポン、と頭を撫でられる。
(この人は、本当に優しいひとだ…)
私に対して、何も疑問を持ってない。
「戻りました。」
髪も綺麗に乾かしてもらってまた先程の部屋に戻ってきた。けどロイ・マスタング大佐が怖くて、リザさんの後ろに隠れたまま。
「…私は何かしたかな？」
「(ビクッ)」
「……ふむ。怯えられるとなかなか辛いものだね。」
苦笑した声音にそろり、覗くが顔も困ったような顔だった。だから勇気を振り絞った。
「…A。」
「ん？」
「………………私の、なまえ。」
ぽそっと言えば
「可愛い名前だね。」
にこり、とやはり作った笑みを浮かべた。
「…………ありがとう………」
サッとまたリザさんの後ろへ戻る。
(苦手だ……)
「…中尉。」
ロイ・マスタング大佐はリザさんに声をかけた。報告をしろ、ということだろう。
「…この子は路地裏にしゃがみこんでいました。」
「路地裏？」
「はい。…あと恐らく部分的記憶喪失かと。」
「………なに？」
声が低くなった彼に思わず肩が震えた。それに気付いたリザさんが彼を呼ぶ。
「大佐。」
「あ、あぁ、すまない。それで？」
「名前は言えるみたいですが、家は覚えてないようで…」
(…ごめんなさい…)
記憶喪失なんてしてない。
私はココに逃げてきたの。
あの人に逢いたい、という理由は
本当はただのきっかけでしかないのだ。
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作者名：もっくん | 作成日時：2017年4月1日 2時
