【短編集】live with the devil

辛さと痛み ページ2

ブートジョロキアの刺激臭がAの鼻を刺す。

　それを横目にカゲロウは、常人では口にすることはおろか、近づくことすら拒むであろう程の辛さのカレーを、美味い美味いと貪る。




　……確か、舌で感じられる味覚は五つだったか。

　甘味、塩味、酸味、苦味、旨味。“辛さ”というのは味覚ではなく、実は痛覚である。と、どこかの本で目にしたことをAはふと思い出した。


　身体の宿主が甘党なのに反し、その悪魔であるカゲロウが異常なまでの辛党なのは、痛覚を通じて一時的でも身体が自分のものであると確認するためなのだろうか。

　そう思うと、“辛いものを食べる”という行為自体に、深い意味があるように感じられる。

　
　

　そんなことを考えているうちに、カゲロウはとうにカレーを平らげていたようだ。少量の水を口に含むと、カゲロウはコップを乱雑に置く。


　皿を片付けようと立ち上がるカゲロウの服からは、ブートジョロキアが仄かに香った。

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