三月、体育館裏にて ページ11
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数時間の式典はあっという間に終わってしまった。
手元にある卒業証書と胸元の花飾り、周りの別れを惜しんで泣く子達の声で 自分も卒業したのだと自覚する。
私も寂しい思いがないわけではないのに 案外あっさりしているなあと思ってしまうのは、自分の中にある違う感情がそれよりも大きいからか。
「内田」
『…北くん』
振り返れば同じく制服の胸元に花飾りを付けた北くん。他に話す相手がいるだろうに、わざわざ呼んでくれたことが素直に嬉しい。
彼は泣く様子など微塵もなく、かといってにこにこと笑っているわけでもなく。
「…ちょっと、ええか」
いつも通りの真顔で 私を体育館の裏へと手招いた。
どくん、心臓が一つ大きく鳴った。
北くんは大きな桜の木の前で立ち止まった。数ヶ月前、私が告白した場所と同じ場所。
青々と葉が茂っていたその木は 数十日後に花を咲かせるべく蕾を薄く色付けていた。
「まずは 卒業おめでとう」
『えっ、…ああ、ありがとう?』
何を言われるのかと身構えていた私は ちょっとばかり気の抜けた声を出す。
北くんもおめでとう、と返す北くんは ありがとお、と表情を少し緩めた。
もちろん北くんがここまで連れてきた理由はそれを言うためではなくて、北くんの表情が元に戻ると 本題に入るのだろうとまた心臓が大きく動いた。
「俺が将来こうなったらええな 思うことがある、言うたの覚えとるか」
『うん』
「今日が卒業やから、教えたろ思て」
まさか、そのためだけに呼び出したの?
いや、気になっていたのは確かだけど ここまで連れてくる必要はあったのか。少し疑問に思いつつ 何なのかと問う。
周りに聞かれたら困るような内容なのか、それでも律儀に教えてくれようとしてくれている北くんは相変わらず真面目だな。
「その前に一つ、聞いてほしいことがあって」
北くんが一つ息をついて、目を伏せた。
長い睫毛がゆっくりと持ち上がって、淡い瞳が私だけを捉えて。
「…内田Aさん」
『は、はいっ』
「___好きです。俺と、付き合うてください」
瞬間、ぶわりと風が吹いて。
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はやみこ - 北さん…かっこいい!とても素敵なお話でした。 (2020年5月24日 12時) (レス) id: d7eec8a8e8 (このIDを非表示/違反報告)
あゆ(プロフ) - えええ、大耳くん???それは意味深だよぉぉ。君も素敵な男やなぁ。これぞ甘酸っぱいお話ですね。誰かの恋の裏には言い出せもしない失恋が隠れてるのかな何て勝手に想像してしまいました。 (2020年4月30日 23時) (レス) id: 8c1d6118a6 (このIDを非表示/違反報告)
氷水(プロフ) - うわあああ…たまたま見つけて読んでしまいましたが、とても素敵でした…素敵な北くんのお話をありがとう… (2020年3月26日 1時) (レス) id: b2d8d7cb3b (このIDを非表示/違反報告)
an20080321(プロフ) - もうさいっっっこうです!!素晴らしい作品ありがとうございました、、!! (2020年3月12日 21時) (レス) id: ee660bdd63 (このIDを非表示/違反報告)
月埜(プロフ) - ありすさん» ありすさんはじめまして、ありがとうございます...!!この作品で少しでも多くの方に北くんをもっと好きになって下さったら嬉しい限りです。コメントありがとうございました!! (2020年2月25日 22時) (レス) id: d1ca7a883a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月埜 | 作成日時:2020年2月14日 22時