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同月、教室にて ページ10

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『…卒業したくないな』


「最近ずっと言いよるな それ」









明日は三月一日。稲荷崎高校では卒業式が行われる。


ここ数日間は卒業式の練習が行われており、いよいよ卒業が迫ってきていることに寂しさを覚える。


会う度に卒業したくないと漏らす私を見て 大耳くんは一つ溜息をついた。彼には私が卒業したくない理由もわかっているらしい。









「…まだ好きなんか、信介のこと」


『うん、なんなら前より好きになったかもしれない』


「一途やなあ」









明日、卒業式を終えてしまえば もう彼と会うことは難しくなるだろう。


私は北くんの連絡先を知らないし、彼が志望する大学は私の進学先と離れている。


北くんが親切なおかげで今も彼と話せているけれど 元々私は北くんに告白してふられた身なのだ。


相手が相手だったら、私は好きな人と話すことすら出来なかったかもしれない。そう考えると私は幸せ者だ。









『優しいな、北くんって』


「どないしたん、急に改まって」


『もう二度と会えないかもって思ったら泣きそうになってきた』


「まだ明日があるやろ、大丈夫かほんまに」









顔を顰めて涙腺が緩むのを必死に堪える。


ぎょっとした大耳くんが子供をあやすようにわしゃわしゃと頭を撫でた。


前髪巻いたのに崩れるでしょと言いたいところだったけど 自然と心が落ち着く気がしてその言葉は飲み込んだ。彼も彼なりに私を気遣ってくれたのもわかっていたから。









「そない好きなんやったら、もっぺん告白したらええやん」


『私そんなにメンタル強くない。それに一回ふってるのに その後OKする人とかいるの?』


「おらんことはないやろ」


『でもなあ』









もう一回ふられるのが怖い。私にあるのはただそれだけだった。


次ふられたら、それこそ失恋確定だ。去年の五月に泣いた以上に泣く自信がある。









『もしふられたら、大耳くん慰めてくれるの』


「はあ?」









大耳くんは罰が悪そうにがしがしと頭を搔くと、ふいに窓の外を眺めて小さく言った。









「…せやなあ。もしまたふられたら、そんときはいくらでも慰めたるわ」









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三月、体育館裏にて→←二月、学校前にて



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はやみこ - 北さん…かっこいい!とても素敵なお話でした。 (2020年5月24日 12時) (レス) id: d7eec8a8e8 (このIDを非表示/違反報告)
あゆ(プロフ) - えええ、大耳くん???それは意味深だよぉぉ。君も素敵な男やなぁ。これぞ甘酸っぱいお話ですね。誰かの恋の裏には言い出せもしない失恋が隠れてるのかな何て勝手に想像してしまいました。 (2020年4月30日 23時) (レス) id: 8c1d6118a6 (このIDを非表示/違反報告)
氷水(プロフ) - うわあああ…たまたま見つけて読んでしまいましたが、とても素敵でした…素敵な北くんのお話をありがとう… (2020年3月26日 1時) (レス) id: b2d8d7cb3b (このIDを非表示/違反報告)
an20080321(プロフ) - もうさいっっっこうです!!素晴らしい作品ありがとうございました、、!! (2020年3月12日 21時) (レス) id: ee660bdd63 (このIDを非表示/違反報告)
月埜(プロフ) - ありすさん» ありすさんはじめまして、ありがとうございます...!!この作品で少しでも多くの方に北くんをもっと好きになって下さったら嬉しい限りです。コメントありがとうございました!! (2020年2月25日 22時) (レス) id: d1ca7a883a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:月埜 | 作成日時:2020年2月14日 22時

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