【北信介】北くんにふられた。

九月、渡り廊下にて ページ15

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「やぁっと休憩か、今日はいつもより暑いなあ」


「せやな、早いとこ日陰入らんと」









高校最後の体育祭、雨が降らんかったんはよかったけど こうも暑すぎるとさすがにバテてまいそうやな。


昼は俺も練も弁当派やから、そのまま教室へ向かうべく昇降口を目指す。その途中で、生徒たちとは違う方向へふらふらと歩いていく見慣れた後ろ姿を見た。









「信介、どないしたん」


「…ちょお、先行っとってもらえるか」









突然立ち止まり そう言った俺に、練は不思議そうな顔をしながらも頷いた。


何だか嫌な予感がした。俺らは普段から部活しとって、暑い中で身体を動かすんは慣れとる。せやけど文化部や帰宅部のやつらには、きっと厳しいやろし。それに加えてこの日差し。


彼女は帰宅部やった。確証は無いけど、軽く熱中症にでもなったんやないかと思う。あの方角からして、向かったんは渡り廊下やろ。




途中で通りがかった自販機でスポーツドリンクを買う。…さすがにお節介やろうか。まあ、断られても俺が飲めばええやろ。




案の定、内田は渡り廊下の隅に力無く座っていた。タオルを頭に深く被り、俯くその後ろ姿に「大丈夫か」と声を掛ける。


びくりと肩を震わせて振り返った内田。俺の姿を捉えると、少し表情を歪ませた。









『…なんでいるの』


「なんやふらふら歩いてくのが見えたから、心配になって見に来た」









久しぶりに言葉を交わした気がする。どこかたどたどしく、気分が悪そうに曇る声。


最近避けられとんのもわかっとるし、歓迎されてへんのは明らかやけど、やはり調子の悪そうな彼女は放っておけん。


見たところ彼女は水分のとれるものは持っておらず、「買ったばっかやし口付けてへんから」とキャップを緩めて 半ば強引にペットボトルを手渡した。


彼女は一口それを含んで、息を吐く。


ほんの少し緩まった表情に安堵して。俺も足を伸ばして 人一人分空けて彼女の隣に座った。









『…お人好しめ』


「お人好しも何も、クラスメイトが体調不良になっとったら そら心配くらいするやろ」


『……まあ、うん。…ありがとう』









クラスメイトの前に、好きなやつなんやけど。仮にそうやなくても俺は同じことをしたと思うし、第一それはまだ言わんって決めたから。




お前からしたら嫌やろうけど、そういうことやから ふらついた身体に手ぇ貸すくらいは許したって。









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