春、恋に落ちて。2 (ページ14)

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勇気を振り絞ってインターホンを鳴らすと、すぐにドアは開いた。

ちょっと不機嫌そうな玉森裕太が
「遅い。」
と言いながらわたしのことを家の中へといれた。

「ごめん、準備に時間がかかっちゃって…」

「ふーん。
とりあえず座って、なんか飲む？」

そういってキッチンへと消えて行く玉森裕太。

「ん～裕太は？」

「俺？俺はコーヒーにしよっかな」

「じゃ、わたしもコーヒーにする」

はいよ～なんていつもみたいにゆるい返事。

彼女がいるのに、
どうしてわたしみたいな『都合のいい女」を呼ぶんだろう。

いつもこの家にいるときは落ち着かないけれど、
今日はいつも以上にそわそわする。

悪いことをしているような、覗かれているような、
とにかく落ち着かない。

櫻井さんに対して後ろめたい気持ちがあるからだろう。

そんなことを考えているうちに玉森裕太がマグカップを持ってリビングに現れ、わたしの隣に座った。

「はい、どうぞ。
ブラックでよかった？ミルクもお砂糖もあるよ」

「ううん、大丈夫。ありがと。」

お互いにひとくち飲んでマグカップを置いた。
わたしから何か言うことは出来ない。

ちょっとだけ重たい時間が流れて
玉森裕太が意を決したように口を開いた。

「理央のことなんだけどさ、」

やっぱりその話だよね、分かってる。

「付き合ってるんでしょ！良かったじゃん」

玉森裕太の口から直接「付き合ってる」だなんて言われたら耐えられる気がしなくて咄嗟に喋る。

「いや、良くないんだよね」

わたしだって良くない。

「良くないって…？」

「付き合ってないんだよ俺たち」

…頭の中に浮かぶはてなマーク。

「え…でも櫻井さん言ってたよ…？」

「それが違うんだよ」

「大丈夫、わたし傷付いてないから！
変に気使わないで！」

櫻井さんと付き合うことになった_____
だからあの日の朝、
玉森裕太は自分に好意を抱くわたしに冷たくして家を出ていったんでしょ？

「大丈夫じゃないよ」

そういって玉森裕太がわたしの顔を覗き込むけど
こんな顔見られたくなくて逸らす。

もう傷付きたくない。
櫻井さんにもバレたら良くないよ、こんなの。

「A、話聞いて」

「いやっ聞きたくない」

こんなこと言うタイプじゃなかったのに。
玉森裕太のせいでいつもわたしの心はかき乱される。