春、恋に落ちて。

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相変わらずタクシーの中では無言で携帯いじっててそっけない。
会話もないまま玉森裕太が指定したお店についた。




個室に案内されて座ったタイミングでやっと言葉を発した玉森裕太。





「ここ水炊きのお店なんだよね。
コラーゲン肌にいいっしょ？てか、水炊き食べれる？」




「うん、好き。お腹ぺこぺこだったの」




この人、わたしが水炊き嫌いって言ったらどうしたんだろ。
せめてタクシーの中で聞いてよね、なんて思った笑




「Aもお腹すくんだ笑」




撮影前からずっと、さん付けで呼んでたのに
またわたしのこと呼び捨てした。
ならわたしも呼び捨てにしていいのかな。




「そりゃ空くよ笑
それに撮影終わったから好きなもの食べてもいいの！」




「なら好きなもの食べな笑」




適当に頼むね〜と玉森裕太が注文してくれて、ふたりでお鍋をつついた。




ふたりで撮影のこととか他愛もない話をして、いい感じにお酒も進む。
こうやってふたりで楽しくご飯食べてお酒飲むのなんて初めてかも。




ずっとこの時間が続けばいいのに…なんて思っていたら




「てかさ」
と急に食べる手を止め、




「なにピアス置いてってんの？」と玉森裕太が言った。





気付いてたんだ…
いや、気付いていてもなにも言わないと思っ…




「気付いてないと思った？」




続けて玉森裕太が言う。
図星だ……




「あはは…思ってました…」




急にぶっ込んでくるからお酒も相まってわたしの思考は停止した。




「なに？一番最初にCHANELのピアス置いてったのもわざと？」




「いやっ！それは本当に違う！！」




「ふーん、『それは』ってことは今回はわざとなんだ？」




意地悪な顔する玉森裕太。
驚いて黙り込む。




「そんなことすんなよ馬鹿。」




「うん…ごめんなさい…」




「食べ終わったら取りに来いよ。」




なんでなんでなんで？！




また玉森裕太の家へ行ったら帰れなくなってしまう…




「いや、わたしのじゃないからそのまま返す」




「だめ。あげたんだからもうお前のだし。」




「じゃあ今度会った時に渡してよ」




「無理、来いって言ってるの。」




行きたい。
けど、そのまま帰れなくなる。
本当は帰りたくないし…




「…行ったらわたし帰れない…」
勇気を振り絞ってそう言ったのに




「なら帰らなくていいじゃん」




そんなこと言って玉森裕太が優しく微笑むから
わたしの弱い意志はいとも簡単に崩れた。

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