春、恋に落ちて。

31 Yuta side ページ31

.




キスを合図にふたりで白いシーツの海へ落ちていく。




これが最後になるなら…
Aが泣きそうな目で俺を見つめるから。





余裕がなくなる。




最後なんて嫌だ、でも俺たちは一緒にいられない。
これから一緒に仕事をする。
だからこそ離れなきゃ。仕事に支障をきたすわけには行かない。




朝が来るまではふたりでいよう。




キスだけでどんどん高まるお互いの気持ち。
油断したら言葉にしてしまいそうで。
思わず気持ちを伝えてしまいそうになるから、キスだけに集中する。




今まではなんとも思わず服を脱がせてたのに、今日はそういうわけにもいかなくて、一つ一つの動作が慎重になる。




本来、こうでなきゃいけないのに。
俺は今まで何人の女を傷つけてきたんだろう。




傷つけてもいいと思ってた。
自分が傷つかなければ。





でも、自分が傷ついても
Aのことは傷つけたくないと思った。




だから大事に、丁寧に、優しく触れる。




そのたびにAが恥ずかしそうにする。




今まで何度も体を重ねてきたのにお互いに見つめあって優しく触れ合うのは初めてだった。




初めてなのに、これが最後。




朝が来たら俺たちは「都合の良い関係」でもいられない。




それまで1ミリも離れたくない。
初めてそう思った。




何度も何度もお互いを求め合い、空が明るくなってきてやっと眠りについた。




アラームがなって目を覚まして一服する。
全部終わりか…なんて考えちゃったりして。




少しの間でもAはこんな気持ちにさせてくれた。





俺が忘れかけていた「気持ち」を思い出させてくれた。




その気持ちに蓋をして、俺たちは「都合のいい関係」を終え、仕事仲間へと戻るんだ。




ふー、と煙を吐く。




視線を感じて振り返ったら、Aがこちらを見つめてた。




「あ、おはよ。」




「おはよ。たばこ好きだね」




「まあね笑 A吸う？」




「ちょっとだけ…」




手を差し出して俺からたばこを受け取って吸い込んでむせるA。




「あははっ！初めて？笑」




「うん、初めて。くるし〜おいしくない〜」
　



「なんで吸おうとおもったんだよ笑」




馬鹿だな〜なんて思ってたら、急に真面目な顔で
「裕太の好きなもの好きになりたいから」って。




俺もそう思ってる。
なのにその気持ちに応えられなくてごめん。
悲しそうな顔をするAを思わず抱き寄せた。

32→←30

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す