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「は……？」
その日、いつも通り家に帰った俺を待っていたのは、予想もしない話だった。
じいちゃんが、倒れたらしい。
じいちゃんは、俺が小さい頃からすごく良くしてくれていた。
というのも、俺の父親が、俺が生まれてすぐに事故で亡 くなってしまって。
母さんがシングルマザーとして育ててくれていたものの、やはり負担が大きく、そこに手助けをしてくれたのがじいちゃんだった。
じいちゃんは、ある店のオーナーをしていた。
周りに言うなよ、と釘を刺されていたから光たちにも言ったことはなかったけど、それはそれは立派な店で。
夜の世界の店だということを除けば、じいちゃんは大社長様だったらしい。
じいちゃんは、もう復帰できなそうということだった。
それどころか、もう長くないだろうとも言われた。
悲しかった。
俺にとっては、父親も同然の人だったから。
それから、毎日お見舞いに行った。
じいちゃんは俺の前では元気に振る舞っていたけど、少しずつ弱っているのはよく分かっていた。
そんなある日。
じいちゃんは珍しく、しおらしい態度で俺に話をした。
「…宏太、お前に店をやってもいいか」
「え……？」
それは、じいちゃんが大事に大事にしてきた店を、俺にもらってくれないかという話だった。
とりあえず、と思って話を聞くと、最初は俺に店を渡すことにすごく悩んだらしかった。
夜の世界だし、とても特殊だし、お前の将来を縛りつけることになる。
だから迷った、と。
でも、俺の息子同然のお前に、同じように大事にしてる店を守ってほしいとも言った。
話を聞いて、俺は母さんに相談をした。
母さんは、最初は険しい顔で話を聞いていたものの、あんたの好きにしなさいと言ってくれた。
今まであまり好きにさせてあげられなかったから、と言う母の顔は、今でもよく覚えてる。
気持ちはほとんど決まっていた。
ただ、問題だらけだった。
なんせ俺は、夜の世界のことも、店の経営のことも、何も知らなかった。
おまけに、人助けもしているという特殊性が、俺の頭を酷く悩ませた。
悩んでいる俺に真っ先に気づいたのは、やっぱり2人だった。
「薮さ、最近ずっと何に悩んでんの？」
「え？」
「ずっと考え込んでんじゃん」
「…俺、そんな顔してた？」
「めっちゃしてた」
2人に隠し事は通用しない。
そう思って、悩んでいることを全て話した。
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作者名：まり | 作成日時：2022年10月30日 15時
