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「…おれ、ここに居ていいのかな」
大ちゃんから聞こえた言葉。
その言葉からは、隠しきれない不安を感じる。
そう思わせるから、話したくなかったんだよなぁ。
今まで何度も説明をしてきたけど、誰に話してもこう思わせてしまう。
俺たちとしては、もちろん居てくれて構わない。
というか、居てほしい。
行く宛てもなく、この先のことがまだ何も分からないというまま送り出すのであれば、俺たちの仕事は失敗したも同然だ。
ハウスに居て、救済を手伝うもよし。
新しいなにかを見つけて出ていくもよし。
それを考えて準備するために、長くハウスでゆっくりしてほしいんだ。
でもそこが上手く伝わらない。
それでもいつもはなんとか説明するのだけど、大ちゃんには俺の言葉が届く気がしなくて。
これまで救ってきた人の中でも、特に大ちゃんは壁が厚いようだった。
それはこれまで一緒に生活する中でたしかに感じ取ってきたことで、だからこそ言葉が出なくて。
どうしようかと悩んでいると、大ちゃんに声をかけたのは高木だった。
「有岡くんは、ハウスにいるのがつらいと思ったことはある?」
「ぇ……、ううん、ないけど……」
「じゃあ、ハウスにいてくれる?」
唐突にそんなことを言うから、大ちゃんは驚いている。
俺たちも、何を言い出すんだと雄也を見るけど、雄也はこっちのことなんて気にする気もないらしい。
「え、っと………?」
戸惑う大ちゃんに、雄也はゆっくり言葉を紡いだ。
「山田もそうだけどさ、俺たちも。
帰ってきて有岡くんの姿を見ると、すごく落ち着くんだよね」
「……?」
「俺たちが安心できる場所になってる。
それだけで有岡くんがハウスにいる理由になると思うんだけど」
ダメかな?
と言う雄也に、大ちゃんは目を見開いて固まった。
でも、少し経って、あ……、いや……、と声を出したかと思うと、
「ダメ、じゃ、ないです……」
と顔を真っ赤にして言った。
これには俺たちも苦笑い。
雄也の天然なのか狙ったのか分からない発言のおかげで、大ちゃんはハウスにいることを決めたようだった。
それから、また少し仕事の話をした。
大ちゃんが言い出した、一人での留守番。
よほど忙しいときを除いて、やっぱり誰かがハウスに残ることになった。
まぁ俺たちも有給を使わなければいけないし、ちょうどいい。
多分強がっていた大ちゃんは、少し安心した顔を見せた。
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作者名:まり | 作成日時:2022年10月30日 15時