切り抜き 短編集

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藤「……」



渋谷駅について
人混みに埋もれると

自分の存在価値を自分に、問いたくなる

人混みから逃げるように
どんどん歩く

テレビ、雑誌、ラジオ、媒体は様々で

金額で自分の価値を測られたような錯覚と
再生回数、視聴者数という分かりやすい数字

頑張ろうと自分を鼓舞するものになるけど
気付かない間に自分をすり減らすもので



「あ、藤ヶ谷くんだ」

藤「……」



名前を呼ばれ顔を上げると
俺をみてる人はいなくて、

代わりに自分のグループが
渋谷の大きな画面に流れていた



「かっこいい〜」



…神格化されたアイドルである自分と
現実の自分を分離して安心して



「ほんと好きだよね」

「よく声だけで反応出来たよ……」

「この曲すごく歌詞がいいんだよ、藤ヶ谷くんがね」



それでもファンに会うと
堪らなく嬉しくて

コンサートのスタート
コールが始まるとき

もっともっと大きな声で呼ばれたいと思う



prrrr prrrr prrrrr！


藤「……」



夢と現実

現実の俺はそんなかっこいい台詞履けなくて
応援ソングとか歌えるほど自分は進歩してなくて



藤「もしもし」

北「着いた、どこらへんいる…？」

藤「家具やさん…」

北「すぐ行くから」



君をただ待つしか出来ない

気持ちを型にはめて
はまらなくなったら恋ではないと思いこみ

自分から逃げたくせに


早く来て欲しいなんて自己中すぎる



藤「……」



家具屋さんが見えてくると
もう人混みは減って落ち着き

やっと息が出来たみたいに立ち止まった



何を伝えたらいいんだろう

北山にどうして欲しいんだろう



多分君を見たら



北「藤ヶ谷…！」

藤「……」



涙が止まらなさそうだな



北「……ただいま」

藤「おかえり……」



近付いた北山は、伸ばしかけた手を
雑にポッケにつっこんで

気まずそうに、少し嬉しそうに微笑んだ



藤「……俺のことなんか忘れてると思ってた」

北「無理だろ、お互いテレビ出てるのに」

藤「見てないもん」

北「俺は見てた」



そう言う北山は
本当に俺の目の前に存在しているのか

なんて、不安に思ったり



北「忘れたいなんて、思ったことないよ…」

藤「……ずるいなぁ…」



俺もずっと


君を幸せにしたいと思う気持ちだけは

消えなかった



北「まだ好きなんだ」

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