切り抜き 短編集

6P Ki ページ23

.








病院から帰ると
診断は肉離れだった

復帰に時間もかかる
シーズンには間に合うけど

監督は俺に失望した

ただ、それだけだ。



食べ物もなく汚い家、
ソファしか居場所はない

漠然と座って診断書を眺めた


何も、勝てなかった


周りにも

自分にも


あまつさえ

努力すれば報われる、そんな甘い考えを
持っていたということも気付かなかった。



北「……藤ヶ谷…」



会いに行けば良かった

焦り、余裕をなくし、甘えた結果だ



会いたい

……藤ヶ谷に会いたい



そう思ってケータイを開くと
着信履歴に藤ヶ谷の名前があった

その連絡内容も知らずに
留守電も聞かずに

表示された名前に触れ、電話をかけた



『……Prrr…Prrr……』

北「……」

『Prrr…Pr………………もしもし』

北「藤ヶ谷っ」



久しぶりの声を聞いてすぐ弱音を吐こうと、

君の名前を呼んだのに



藤『留守電で済ませようとしてごめん』

北「…え……？」



君の声は低く、掠れてて



藤『北山の荷物……この家にないよな
合鍵は適当に処分してくれていいから』

北「…藤ヶ谷…？」

藤『悪い、勝手に決めて。
でも北山だって、そのつもりだったんじゃない？』

北「何言ってんだよ……」



なんでお前が泣いてんだよ



藤『電話くれて嬉しかった。ありがとう……プツッ』



あまりにも一方的な電話は一瞬で終わった

普通なら意味の分からない会話なのに
藤ヶ谷の留守電の内容が予想出来るのは、

こんな日を考えたことがあったからだ



北「……くそっ…！」



電話を投げ捨てて
壁にあたった鈍い音がなると

涙が溢れた

投げたとき、指があたったのか
壁の隅で藤ヶ谷の声が再生される





藤『……北山？練習お疲れ様、あんま無茶すんなよ』


北「…もうおせーよ……」


藤『今日、会いたかった』


北「ごめん……」



繋がっていないただの留守電だと
分かっているのに返事して

何してるんだろう



藤『俺から会いに行ったことないくせに

こんなことばっか言ってごめんな……？』



君への気持ちはなくなったと
思いながら何年も過ごして傷付けた



藤『…………もう、やめようか』



なのに



藤『好きだったから、ちゃんと終わらせたい』




締め付けられるほど苦しい




藤『……今までありがとう。サッカー、頑張って』





言うべきだった言葉が


君を傷つける言葉に

変わるとは思わなかった




いつでも


好きといえば


好きと




返ってくると思っていた

7P F→←5P Ki

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す