切り抜き 短編集

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夕方、ピンポンを鳴らすと
優しい笑顔で迎えてくれるのは高校からの親友



横「シチュー作ったよ」



約束していたわけじゃないのに
2人分のごはんがあるのは渉の彼女分じゃなくて
ちゃんと俺の分。



藤「……もう2年も会えてないよ」

横「仕方ないよ、チーム移籍したんでしょ？」



半年に1度、1年に1度
それを繰り返して７年目

北山の帰国がキャンセルになる度
渉の家に来たせいで

渉は温かいごはんを用意してくれるようになった



藤「……もう、ダメかもしれない……」

横「そんなことないって、太輔が好きなら…」

藤「俺もっ」



かもしれないなんて

電話が減る度、考えた



藤「俺も、会いに行ってないんだよ」



北山だけのせいじゃない
気持ちが冷めてしまっているとか
そんなもの何年も前から気付いてたし。

けど、俺は会いに行ってない
仕事柄北山の予定に合わせれないからと言い訳をして

一瞬だけでも会えるなら
行けばいいのに

俺は、愛されることだけ望んで
今は北山を束縛しているだけ……

７年も、過ぎて



横「……今、会いに行こうとは思わない？」

藤「分かんねー……行っても北山は驚くだけだし」



俺の気持ちすら
重いと思って見て見ぬ振りする人だから



藤「今日会ったら確認出来ると思ってたんだけど」

横「……会ったら、また何も変わらないままだったんじゃない？」

藤「前進だったらいいな……」



電話で伝えて

北山なんて答えるんだろう



“わかった”



それだけかな

きっと俺もそう答えるよ



横「…とりあえずシチュー食べよう！」

藤「ん、すげーいい匂い」

横「自信作出来たからさ、まじ来てくれてちょうどよかった」

藤「ふはっ、わた、いつもありがとう」

横「どういたしまして」



7年、会った時間は全然ないのに
時間だけ過ぎて、

気持ちは変わって


君と繋がっていると、
思っていた未来は見えなくなった



藤「あんなに楽しかったのに……
もう気持ちだけが昔みたいに思い出せない」



それが辛くて悲しくて

終わったことをただ、噛み締める



横「次の大切な人に会う準備かもよ」

藤「え？」

横「その人のための気持ちを空けてるんだよ」

藤「………悲しいね」



好きだったよ

大好きだった







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その日の夜、北山は電話に出なかった

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