episode４２ ページ44
私の両手を掴んで、泉くんが強制的に目を合わせた。
未だに止まらない涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。
一瞬ぎょっとしていたけれど、すぐに真剣な表情をして続けた。
「俺、前にAに会ったことがある気がするって言ったでしょ。
それが何のことだったか、この前ようやくわかったんだよね」
それを聞いてドキッとする。
だって、心当たりは握手会やライブの現場しか──。
いや、まさか。
「それはね、握手会とかライブとか、そういうアイドル瀬名泉としての現場じゃなかった」
凛とした瞳に見据えられ、どぎまぎしている中、思考回路はいっそクリアで、冷静にものごとを考えていた。
もしかしたら、"あれ"が初めての出会いなのだろうか。
顔をしっかり思い出すことができない、あの日出会った男の子が？
いままでの私なら、「そんなの都合がよすぎる」と考えもしなかっただろうけど、ありえないことが幾度も重なった今、可能性はゼロではない気がした。
「今日この公園に来て全部思い出したよ。
俺とAは、この場所で出会ってる。それも、５年前に」
──それは、Aが俺のファンになるよりずっとずっと前の出来事なんだよ
まさかにまさかが重なる。
本当に、あの男の子が泉くんだった？
「……っ、え、えぇ……？」
「中２のときから糖質制限してる男だよ。覚えてない？ いや覚えてるよねぇ？」
まじで？ と目をぱちぱちさせる泉くんがなんだかおかしくて、私は笑ってしまった。
「いや、覚えてはいるけど……状況がまったくもって呑み込めてなくて」
仮に冷静そうに見えていたとしても、頭の中は大パンクを起こしていて、今自分がまともに話しているかすら分からない。
「なにそれ。大好きな推し様と５年も前に会ってたなんて、さすがの優秀メイドさんも処理に時間かかるんだ」
にやっと笑う泉くん。
こんな表情もするんだな、なんてぼけーっとした頭で少し思う。
「じゃあさ──深く考えないでいいから、俺の話聞いてほしい」
息が詰まってしまうくらいにきれいな泉くんが、また真剣な表情になった。
そして手を、私の頭の上から頭の後ろに移動させる。
泉くんはふと目を閉じて──
「……！！？」
彼の唇が、静かに私のものと重なった。
──触れるだけの、優しいキスだった。
一瞬でそれが終わると、驚く私をふんわりとした眼差しで見つめながら、彼は言った。
「俺、この公園で会ったあんたのことが忘れられなくてさ」
そして、信じられないことを口にした。
「そのときからずっと──Aのことが好きでしょうがないって話」
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咲愛(プロフ) - ﾂｷさん» コメントありがとうございます！始まった頃から読んでいただけているとは、大変うれしいです！続きは本日中に公開出来たらと思ってますので、ぜひぜひ今後ともよろしくお願いします！ (2023年2月22日 16時) (
レス) id: 8b89f62398 (このIDを非表示/違反報告)
ﾂｷ(プロフ) - この作品が始まった頃から楽しく読ませて頂いてます！毎日更新が楽しみで素敵な作品に出会えたなと思いました！続き楽しみに待ってます！ (2023年2月21日 22時) (レス) @page50 id: 56454ebf31 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：咲愛 | 作成日時：2023年1月27日 12時
