episode39 ページ41
『いいから! せっかくの俺たちのデビュー戦なのに、帰られちゃ困るじゃん』
凛々しい瞳、きれいな声。
きっと周りも彼に惹き付けられたのだろう、帰ろうとしていた足を止めて戻ってきた。
もちろん私もその一人。
『……急にごめん。まだチェスのライブは続くから、最後まで楽しんでいってよねぇ』
第一印象は、すごく姿勢がいいなあ、というもの。
周りの人がやる気の感じられない猫背ばかりだったから、余計にそれが目立っていた。
急に飛び出してきて帰ろうとする観客を引き留めるなんて、今の泉からは想像できないけれど。
そんな出来事も、私にとってはひとつの思い出だ。
きれいな笑みを私たちに向けて、彼は舞台袖に戻った。
ステージに残された人たちは一応パフォーマンスを再開したけれど、やはりぱっとしない。
でも、誰も席を立たない。
みんな灰色の彼──瀬名泉の出番を待っているのだ。
チェスを変えるのは、彼なのではないか。
そんな期待もこもっていた。
そしてやってきた彼の番。
オレンジの子も一緒に舞台に立っていた。
頭を鈍器で殴られたような衝撃が、感動が、一気に流れ込んできた。
そうだよ、これがアイドルだよ。
これが見たかったんだよ。
周りは相変わらずダラダラとしていて不愉快だったけれど、そんな中で泉はぴんと指先まで神経を張り巡らせてきれいに踊って、きれいな声で歌って、しっかりファンサも投げかけてくれる。
レオも素晴らしいパフォーマンスをしていたけれど、あまり覚えていない。
それくらい瀬名泉という存在に心を奪われていた。
「すごい……」
思わずつぶやいてしまうほどに。
それからほとんど毎回チェスのライブに足を運んだけれど、泉は一年生ということもあってなかなか出演することはなかった。
たまに舞台の上に立っている姿を見れるだけでも、充分うれしかった。
高校二年生になったとき、チェスは分断された。
夢ノ咲で「なにか」が起こったらしく、泉はチェスから派生した「Knights」というユニットに所属することになった。
それが、今のKnightsだ。
最初はレオと泉の二人だけだったけれど、二人でも立派に「アイドル」をしていた。
他のチェスから派生したユニットはどうしようもないくらい腐っていたけれど、Knightsは違かったのだ。
そんなKnights最古参の私はいつの間にか泉に恋をしてしまった。
「私、ずっと言えなかったけど──泉くんの、ファンなんです」
でも、この恋に終止符を打とうと、決意して。
炎上の火種となった私のつぶやきを、そっと削除した。
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咲愛(プロフ) - ツキさん» コメントありがとうございます!始まった頃から読んでいただけているとは、大変うれしいです!続きは本日中に公開出来たらと思ってますので、ぜひぜひ今後ともよろしくお願いします! (2023年2月22日 16時) (レス) id: 8b89f62398 (このIDを非表示/違反報告)
ツキ(プロフ) - この作品が始まった頃から楽しく読ませて頂いてます!毎日更新が楽しみで素敵な作品に出会えたなと思いました!続き楽しみに待ってます! (2023年2月21日 22時) (レス) @page50 id: 56454ebf31 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:咲愛 | 作成日時:2023年1月27日 12時