episode21 ページ23
途中、私のおなかがぐうっと鳴った。
突然のことで驚き、そして恥ずかしさで落ち込んだ。
「……忘れてください」
少し呆れたようだった泉くんが、「ん」と何かを差し出した。
ジップロックの袋の口を開いて、食べな、とでもいうようだった。
「ドライフルーツ。少しはおなかの足しにしなよねぇ」
何か、引っかかりを感じたけれど今は関係ない。
私は喜んで一つ取り出し口に運ぶ。
「おいしい。 ありがとう泉くん……!!」
「……これくらい別に大したことないから」
私は幸せ者だなぁとしみじみ思う。
そんな私を泉くんがじいっと見つめていたことに気付きもしなかった。
「「……」」
またも気まずい沈黙が流れる。
さり気なく泉くんが車道側を歩いていることに気づいた瞬間は、もう頭の中がパニックだった。
「俺、あんたに聞きたいことがあって」
ふと泉くんが立ち止まった。
私もぴたりと足を止める。
「な、なんですか」
「敬語やめてって言ったじゃん……ま、いいや」
綺麗な青い瞳がまっすぐ見据える。
ドキッとして、くらっとして。
それでいて少し、ゾクッとするような、そんな目をしている。
「Aと俺。前にどっかで会ったことがある気がするんだよね」
「……え──」
会ったことがある。
私と、泉くんが。
それはもちろん、イエスだ。
何回ライブや握手会などのイベントに参加したことか。
数えられないくらい、私と泉くんは会っているんだよ。
でも、泉くんにとっての私は、数あるお姫さまのうちの一人でしかないのに。
もしかして、覚えていてくれていたのだろうか。
いや、それとも──
「ないです、あの日が、はじめましてです」
嘘をついた。
「……そっか」
どうして泉くんはこの時少し寂し気な表情をしたのだろう。
「こ、ここ、私の家」
「ん。じゃあね。」
家の前に着いた。
ばいばい、と手を振ってくれる泉くんを、私は無意識のうちに引き留めていた。
「え、なに──」
「……っ、実は、私も……」
ずっと前に会ったことがあるような、そんな気がして。
それを伝えると泉くんが目を丸くした。
「ねえ、やっぱりAって、」
「じゃ、じゃあ失礼します! ありがとうございました!!! 」
私は逃げるようにしてその場を去ってしまった。
心臓がばくばくうるさい。
顔もきっと真っ赤。
あーあ、もう。
でも、会ったことがあるような気がしたのは本当。
それも、私が泉くんのファンになるよりも前に。
「……ドライフルーツ」
そうだ。
ドライフルーツを渡してくれたその姿が。
──5年前の、あのお姉さんに重なったんだ。
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咲愛(プロフ) - ツキさん» コメントありがとうございます!始まった頃から読んでいただけているとは、大変うれしいです!続きは本日中に公開出来たらと思ってますので、ぜひぜひ今後ともよろしくお願いします! (2023年2月22日 16時) (レス) id: 8b89f62398 (このIDを非表示/違反報告)
ツキ(プロフ) - この作品が始まった頃から楽しく読ませて頂いてます!毎日更新が楽しみで素敵な作品に出会えたなと思いました!続き楽しみに待ってます! (2023年2月21日 22時) (レス) @page50 id: 56454ebf31 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:咲愛 | 作成日時:2023年1月27日 12時