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くるりと半身を翻し、いのちゃんの
寝顔に視線を合わせる。
僅かに開いた口許から可愛らしい前歯が
ちらついて見えた。
滑りの良いシーツを利用して、可能な限り左
手を反対側へと送る。
指の先までピンっと伸ばして、俺もその柔ら
かな頬に触れたいと思った。
でも、届かないから。
いのちゃんの元へ俺の左手は届かなかった。
“ スルリ ”
静寂を破ったのは、シーツが波打つ音。
眠り姫が目覚めるワンシーンの様にいのちゃ
んがゆっくりと瞳を開いた。
王子からのキスも無く眠りから覚めた姫は、
定まらない焦点でぼんやりと天井を見上げる。
それから、いつもの癖なのだろう…
自らの両手首を翳して、傷跡に触れた。
爪痕を確認し、“いたい” とだけ呟いたいのち
ゃんは、そのままコテンとこちらへ首を倒した。
重く垂れた瞼がピクリと揺れた。
ぼんやりとした視界が色を取り戻し、目の前
の光景を認識していくのが分かる。
絡まり合う視線。
しっかりと世界を捉えたいのちゃんの大きな
瞳には、俺だけが映っていた。
「 りょうすけ 」
思いの外、はっきりとした発音で名前を呼ば
れた。
いのちゃんに“りょうすけ”と呼ばれる心地好
さにくらくらした。
胸が熱くて、思いだけで焦がれてしまいそう。
俺が伸ばした届かない筈の指先へ、いのちゃ
んがすうっと手を伸ばす。
広いベッドの真ん中でいのちゃんの華奢な指
先と俺の左手とが絡まった。
あぁ、そうか…
届かないなら、引き寄せて
抱き締めれば良いんだね。
あの夜、いのちゃんがしてくれたみたいに。
俺は、絡み合ったままの指先をそっと包み込
みいのちゃんの腕を引く。
痛くないように優しく抱き寄せて、肩と肩と
が触れ合う距離に身を置いた。
いのちゃんの温かさ、甘い香りに満たされて
いく。
「 ただいま、いのちゃん 」
「……おかえりなさい、 」
俺の居場所は、ここにしかない。
いのちゃんだけが俺の帰る場所だから。
「心配した…帰って来ないかもって…」
「ごめんね、ごめんね……ごめん…」
いのちゃんが泣いている。
俺のための涙だって、
今だけは信じることにした。
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ぴよ(プロフ) - あいとさん» あいとさん、ありがとうございます( ´∀`)凄く久しぶりに二人に想いを馳せてみました。私もここ迄辿り着く過程を思うと万感の思いです。幸せに過ごしてほしいなぁ♪ (2018年6月25日 12時) (レス) id: 20d979f9fd (このIDを非表示/違反報告)
あいと(プロフ) - ぴよさん!ろくでもない夜にファンの私にはとても嬉しいお話でした!この日までよく頑張ったね二人…、いのちゃんこれからは大好きな人にだけ甘やかしてもらうんだよ…となぜか親心…(笑)素敵なお話ありがとうございました! (2018年6月24日 7時) (レス) id: 6689a85a28 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - にゃーごさん» にゃーごさんこちらにもありがとうごさいます。このお話は当然完璧なフィクションなのですが、その中でも心の動きがなるべく自然に繋がる様にそれぞれの気持ちを想像して書きました。同じ様に感じて貰えて嬉しいです( ´∀`)妄想は最高ですね 笑 (2017年4月28日 22時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
にゃーご - ぴよさん こんにちは。私がぴよさんに夢中になった作品は実はこの作品でした。あの子は実はこんな気持ちじゃないかな?なんて妄想が広がった時に胸にトンと降りてきてもう、ぴよさんワースドから抜け出せません。 (2017年4月28日 9時) (レス) id: a963f855a1 (このIDを非表示/違反報告)
ぴよ(プロフ) - 綺更さん» コメありがとうごさいます。最後まで読んで下さってとても嬉しいです。私も書きながらもどかしく、皆を幸せにしてあげれるのか不安になったりもしたのですが、無事完結出来てホッとしています。涙ぐんで頂けたの事で感激です!また面白いお話をお届け出来る様頑張ります (2017年1月14日 3時) (レス) id: 515f116419 (このIDを非表示/違反報告)
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