この世の欲しを花と云う(続 jump×jump)

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「薮〜！！」

廊下の向こうから光がパタパタ足音をたてながら走ってくる。
明るい髪色の猫っ毛、大きな瞳、にこにこ笑顔で手を振りながら…なんて可愛いんだ…
俺は、思わずにやけそうになるのを押さえ
て出来るだけ自然に笑顔を作った。

「お〜光！今日からだったよね。
一ヶ月よろしくな。」

「うん！よろしくね。
何かやっぱ初日は緊張したわ。」

今日から光が俺の学校へやって来た。
一ヶ月限定だがほぼ毎日光と一緒。
これがにやけずにいられようか。

光と出会ったのは、赴任前の研修時。
人懐こい可愛い笑顔、真面目なくせに天然
でほっとけない所…全てが俺の心を掴んだ。
同じ社会科同士これからもっと仲を深めて
やると意気込んでいたのに…
何と赴任先は見事に別々という悲劇…。
しかも、光はあの変態伊野尾と一緒になってしまうし。
俺は、絶望的な気持ちを抱えこの機会を待っていたんだ。
絶対この一ヶ月で光を俺のものにしてやる。

「次、光空き時間だろ。
社会科準備室使っていいよ。
俺も一回職員室戻ったらすぐ行くから。」

光の授業予定は、全て把握済み。
二人きりになれる準備室へ光を先に行かせる。
“ありがと ” 素直な光は、はにかみながら
廊下を戻っていく。
俺は、その後ろ姿を見送ると足早に職員室
へ向かった。


途中、来客用の中央玄関の前で、山積みの
段ボールに気が付いた。
講習中に使うテキストが納品になった
らしい。
“こりゃ運ぶのも大変だな…”
他人事の様に業者さんに同情しながら
その場を通り過ぎようとした時、
積み上げられた向こう側から小さな人影が
ひょこっと顔を覗かせた。

「すみません…お世話になっております。
今日納品のテキストなんですが…
どちらに運びますか？？」

男の子？？
思わずその姿を凝視してしまった俺に
その子は少し困ったように声を掛けてきた。
よく見ると、スーツ姿で首には社員証をぶら下げている。
あぁ…業者さんなのか。
見た目随分幼く見えるが、どうやら成人男性らしい。
黒目がちのうるうるした目、さらりとした
肌、小さく可憐な唇、困ったように眉毛を
下げたその姿は、光とはまた違った…
そうだ！ 小動物の如き可愛らしさ。

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