氷砂糖8つ ページ9
「......あれ、ここは......」
真っ白な空間に立っていた。
何もない、自分だけの空間。
自分が本当に存在しているのかすら、わからないくらい。
ズキリ。
空腹ものどの渇きも感じないのに、なぜ足の痛みだけは伝わってくるのだろう。
痛い。
「凍てつけ」
......え？
聞きなれた声。
振り向けば、あの日のように戦ってる......
いや、「あの日」の兄さんがいた。
先ほどまでの真っ白な空間とは打って変わって、今度は騒がしい空間にたたずんでいた。
「......戦場？」
「......よそ見とは随分と舐められたものだね？」
「ッ......！」
寸でのところで攻撃を避けた私は、衝撃で後ろへ吹き飛ばされる。
......こいつは......
「いくら弱小国とはいえ、今お前らは包囲されてるんだぞ？......はは、こんな奇襲も避けられないなんてねえ！」
笑えるな、と敵国の騎士が言う。
近くでは悔しそうに蹲る、傷だらけの兄さんがいた。
......体が動かない。
これは夢だ。
すぐに醒めるはず。
「......こんな場所に女を連れてくるなんて......そちらの陛下とやらは考えが甘すぎだろ？」
やめて。
「あ？抵抗すんのか......？残念だったな、お前の大好きな騎士団長サマは助けられないみたいだ」
「......Aッ......」
やめてよ。
「はは、気力が失せたか？なら丁度いい。それじゃ―」
「やめろ！！」
刹那、目の前にいた男たちが固まる。
......そして、それぞれが紅い花を散らして地に落ちていく。
どの男の胸にも、鋭い氷が突き刺さっていた。
最後の魔力を使ってしまった。
しばらくは魔力回復させなくちゃな......
意識が遠のいていく、その時。
「......化け物が！」
ザクッ！
「......ガッ......あ......！」
右足に鋭い痛みが走る。
どうして、どうして夢なのに痛むの。
「化け物......化け物......うっ」
おそらく私の傷口から体が蝕んでるのだろう、その男は呻きだし、倒れた。
じくじくと痛む右足が妙な冷たさを持っている。
......化け物、か......
意識が遠のくなか、兄さんの呻くような声が聞こえる。
警戒していなかったせいで数人しか一緒にいなかった兵も、意識を失っている。
ああ、私がちゃんとしていればよかった。
......おそらく一人、王宮に連絡しに行っただろう。
あとは助けが来るのを......
待つ、だけ............
......私？
「......さん......Aさん！」
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作者名：夜蒼空 | 作成日時：2020年3月29日 14時
