待てば甘露の日和あり【銀魂】

幸せは歩いてこない、だから歩いて行くんだね ページ36

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吉原から飛び出たその日。
目を覚ました医院は薬の匂いに満ちていて薄暗く、悲鳴を上げたのをよく覚えている。


疲労で霞んだ視界には先生と鳳仙が重なって、あぁあの美しい光景は夢だったのかと。一生開かない筈の天井は本当に開いて居なくて、またいつも通りの日が始まるのかと。


話聞かんかいボケナス、と先生に後頭部を思いっきりひっぱたかれるまでずっと蹲っていた。


あの時は私の勘違い。
でも次は？


「＿＿＿私が生きてさえいなきゃ幸せだった人達に呪われて、幸せに慣れた頃に「ここで終わり」って言われるかもしれない。

また誰かを犠牲にして、来るかも分からない幸せを待つことになるかもしれない。もう、そんなのは」


足は不自然に止まった。雑踏の中でも坂田さんは気付いて、口を引き結ぶ私を見据える。何でこの人にこんなこと話してるんだろう、と急激に頭が冷えた。なんなら母の話だっていらなかった。


いやそもそも彼は吉原に雇われた人間だったじゃないか。なのに遊女の手練手管を地でやってしまった。同情を引くための身の上話と思われるのがオチだ。


事実彼は今日イチの呆れた顔をしている。悲劇のヒロイン気取りでバカじゃねーのか、と言わんばかりの顔で。


「オイあんたよォ、悲劇のヒロイン気取りでバカじゃねーのか」


「嘘ぉホントに言われた……」


「ったりめぇだろうが。前は死んでたまるかとか言ってた癖に面倒くせえ事ばっかりグルグルグルグル考えやがって。死にてえのか生きてえのか解らん女ってのは聞いてたが、あながちマジで面倒臭ぇよ」


「えええ……？」


バカなんですかコノヤロー。そんな暴言が飛んできそうなしかめっ面。解らん女って誰から聞いたのそんな事。というかまさかの面倒臭い話でスリーアウトチェンジ？吉原強制送還？


軽く絶望すれば、叩く位の力で坂田さんの手が振ってきて髪をかき回した。余りに前触れが無さすぎて、両手を意味なく上げたまま動きが止まる。


撫でられて居るのだ、と気付くのに暫く時間がかかった。


随分と粗雑な扱いなのに、見上げれば思ったより彼は柔い顔をしている。けれど瞳はどこか遠く、ここでは無い所を見ていた。

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