待てば甘露の日和あり【銀魂】

人の本性は不測の事態から見よ ページ31

ーーー

ーーーーーー



「＿＿＿坂田さん、あの……生きたい大前提で申しますけれど。もし殺るのであればせめて一思いにお願いしたく……。

それともあれでしょうか、お前は獣に食われるのが似合いだとかそういうアレでしょうか」


「待て待て違げーよ。うちのペットこれが通常運転だからネガんないでくれる？定春ぺっ！それぺっ！」


頭上に感じる生臭い息。ほの温かい肉と固い牙を頭皮に感覚として感じつつ、警戒レベルが幾らか違っていたぞと過去の自分に言いたくなる。戦地やない、処刑場や。


何故こうなったかといえば、万事屋銀ちゃんのインターホンを押せば返答が無かった事に遡る。


正確にはずんぐりと大きな影だけが現れたけれど、一切扉を開けてはくれなかった。仕方なく引戸を引けばお出迎えはデカくて白い犬。


つぶらな瞳は愛らしく、ふかふかの白い毛並みは顔を埋めたくなる位見事だったけれど、「なにこの犬おっきい〜！」で済まされる段階のデカさじゃない。私の身長を優に越えている。


あっと声を上げたのが先だったか間に合わなかったか。首を持っていかれるかと思う程の吸引力で頭を齧られて冒頭に至っていた。


ワンちゃんの顎の力が強すぎて、自分の頭の強度が卵のカラ位に思えてゾッとする。


「嫌だ嫌だこんなとこで脳ミソぶちまけるの嫌です！それかこのまま首千切れるまで市中引き回しですか!?怖い怖いムリ」


「お前の発想のが怖えわ！良いからじっとしてろって！ギリギリ頭噛み砕いた事は無いのウチの定春は！ほらぺっ!!」


「もう既に私がギリギリなんです!!というか全然坂田さんの言うこと聞かないんですが!?」


ケンケンガクガク。昨日怪我をさせてしまった相手だし、礼儀は弁えた上で薬届けてさっさと帰ろうと思っていたのにどうしてスタートダッシュから怒鳴りあって居るのかが分からない。


頼むから本当は飼い主の命令を聞く子であってくれ。いい子だから！


そんな願い虚しく牙の一番鋭い部分が頭皮にぷちりと突き刺さる。ぬるりと苦い赤が額に垂れて、あっマズイと思った＿＿＿その瞬間。


ぺろりと頭を舐めた定春くんの舌がびくりと引っ込む。突き刺さっていた歯が浮いて、そして。


「あ」「え」


おえっと耳元で聞こえたや否や、全身にえもいわれぬ液体がまんべんなくぶちまけられる。まさかこれはゲ……


「……もしかして不味かった？
不味かったの定春くん」


呆然と呟く私の視界で、坂田さんが思いっきり頭を抱えた。

人の本性は不測の事態から見よ→←人の本性は不測の事態から見よ

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す