窮鼠猫を噛む ページ21
.
「え、なんで……です?」
困惑半分、嫌な予感が半分。
その人の声が最初と比べて余りに低く、思わず後ろに半歩下がる。ふと男の腰に差した木の柄が見えて、心臓の音が大きく跳ねた。
「や、人違いだったら悪ぃんだけど、アンタに似た女捜してくれって頼まれててよ。貰った写真はもっとこう……厚化粧だったけど髪の色とか顔の感じとか」
着崩された着流しから引っ張り出されたのは写真。年月を経た髪を後ろに撫で付け、獰猛な目を細めて酒を舐める老夫ーーー鳳仙の隣に座る、花飾りの女は。
「ホラ、似てねーか?ねーちゃんと」
「さ、ぁ?世の中には似た顔の人間が3人は居ると言いますから……どなたなのか、さっぱり」
耳まで心臓になった心地がする。最初に狼狽しすぎた。やる気の無さげな風情なのに、その目は引く事なくこちらを見ている。
逃げようにも、出入り口は男の立っている後ろだけ。背後に窓はあるけれど、例え割っても隣の建物が隣接して立っているのを知っていた。裏路地の弊害だ。
ーーーどうして。この人は薬を取りに来た先生のお客さんで、あそことは何の関係も無い筈なのに。何でその写真を持ってるの。
息が乱れかけて、整えようとすれば喉が大きく音を立てた。全身が言うことを聞かずに震える。
「……オイ、言っとくが別に俺ァ」
「どなたが、捜しておられるのですか」
我ながら消えそうな声だと思った。訝しげに眉をひそめた男が何かを言いかけて居たけれど、何を言われてもそれは些末な問題で。
「吉原の番人。月詠って女だよ」
男が私の問いに対して返した答えは、脳裏に浮かんだ心当りの1人を示していた。
「……死神太夫」
馴染みのあった名称が口を吐く。しかしながら、この男は百華ではない。当然だ。あれは女だけで構成されていた。でも、じゃあこの人は。
そこまで考えて、思い至った。
その、髪の色を見て。
「じゃあ、貴方はまさか」
『ーーーそういやぁ、その乗り込んできた男ってのどっかの馴染みかぃ?』
『それがそうでもねぇらしい。珍しいナリしてんのに誰もツラ知らねぇって持ちきりだ。
何でもそいつ髪の色がよ、年寄りでもねぇのに』
___真っ白なんだと。
94人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「銀魂」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
木の実(プロフ) - はるさん» はじめまして!大変に恐れ多いコメントをありがとうございます…!言い回し等は探り探りの作成であった為、その様なコメントを頂けるととても嬉しいです!はる様のコメントを励みに続編作成に注力したいと思います。これからも何卒よろしくお願い致します! (2021年10月8日 8時) (レス) id: 5cf2525d27 (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - 初めまして。コメント失礼します。世界観が私好みですっかりハマってしまいました。設定が細かく丁寧で、言い回しが綺麗なので読んでいてすごく楽しいです。作者様がとても優しい方なのだと伝わってきます。これからも応援してます! (2021年10月6日 23時) (レス) @page41 id: 9d3e0aca39 (このIDを非表示/違反報告)
木の実(プロフ) - ☆辻村春樹☆さん» はじめまして、コメントありがとうございます!世界観や表紙絵にまで言及頂き大変に嬉しいです…!勿体ないお言葉をありがとうございます!何卒これからもお付き合い下さると幸いです! (2021年8月31日 10時) (レス) id: 5cf2525d27 (このIDを非表示/違反報告)
☆辻村春樹☆(プロフ) - 初めまして。吉原編が深く関わる、この小説ならではの世界観がとても素敵だと思いました。つい何度も読み返してしまうくらい好きです。続きを楽しみに待ってますね…!トプ画のイラストも、作品の雰囲気に合っていて、凄く良かったです! (2021年8月29日 23時) (レス) id: 4b0a37e42a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:木の実 | 作成日時:2021年8月29日 0時