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ドヨンをいつものように茶化していれば、
ガチャ、と大きな音を立てて開くドア。
こんな早朝に、俺たち以外の誰が居たんだろう。
先輩方かな、とドアの方を一目見ようと顔を上げる。
…と、
そこにあったのは、もっと幼い顔立ち。
朝靄に光るプラチナの前髪。そこから深い茶色の瞳。
伏し目がちなまつ毛が、冷たい朝の空気を揺らして、
俺と、視線が合う。
時間にしたら1秒もなかった、はず。
目が離せない、という状況をたいそう理解した。
1秒が1分にも、1時間にも、永遠にも感じられるって本当だ。
朝日に照らされて散る空気中の埃も、なぜか今だけは尊いものに思えて、その存在の無垢さをより際立たせている。
すると、ひ、と小さな悲鳴が、シューズ音と一緒に鳴った。
途端、バタン！と閉まるドア。
映画のワンシーンから切り離されたように、手のひらに伝わる冷たい床の温度を思い出す。
コンマ数秒の間にものすごい情報量だった、
どうやらこの一瞬に追いつけなかったテヨンとドヨンは、ひとりでにドアが開いて閉まったように見えたようだ。
おかげで、はてなマークを浮かべて扉の辺りをキョロキョロしている。
「俺、あの子やと思う」
「え、ユタ？え、あ、ちょっと！」
こういう時の勘って当たるもんだ。
自慢じゃないけど、大事なところは外さない。
こういう予感もや、やるべきことは、なぜか"わかってしまう"のだ。
あの子はきっと、俺の後輩だ。絶対そう。
逃げた理由はわからないけど、追ったほうがいい。俺しか気づかなかった理由が、きっとあるんだ。
練習室を飛び出ると、パタパタと聞こえる階段を駆け上がる音。
音のする方向頼りに、聴き失わないよう追いかける。
たくさん喋りたいことがあるんだ。
お節介かもしれないけれど、やってあげたいこともたくさんあるんだよ。紹介したいやつだっている。
君といい友人になれたらいいなと思っているんだ。
「なんで逃げるん？」
「…怖くて。すみません」
「だから練習も来てなかったん？」
「練習は、別メニューが優先なので…」
「ふーん」
数階分登った踊り場で、それはもう驚くくらい細い手首を掴む。
俯きがちな前髪から覗く瞳は怯えて揺れていたけど、荒々しい灯りが潜んでいる。
一瞬の隙をついて逃げ出そうとしている様子はありありとわかったので、そっと逃げ口を塞ごうと、踊り場の隅にじり、と追い詰めてみた。
「ユウタ、さん、これは…」
「お！俺のこと知っててくれた？ありがとう！」
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作者名：tk | 作成日時：2021年11月23日 1時
