1. 君が遠ざかっていることも ページ3
俺より1年あとに、日本人の練習生が1人入ってきたことは知っている。
事務のおばさんにも同じレッスンを受けるんだから仲良くしてあげて、と念を押された。もちろんそのつもりだ。
しかも同郷。
同郷、という響きだけでどことなくウズウズしてしまう。
やはり異国で、1人という状況にどこか寂しさを感じていたのかもしれない。歳の近い日本人の子がいると聞いて、知らないうちに舞い上がってしまう。
先輩ヅラせず、フランクにたくさん話せたらいいな。
そして一緒に困難に立ち向かえる仲間になれたらもっと良い。
…なのに問題は、どの子が"日本人の練習生"か分からないことだ。
レッスンに来るメンツは大体同じメンバーだし、これだけ少なければみんなの国籍くらい把握している。
なのに、どこにも同郷らしき練習生がいない。
たまに入ってくる新規の練習生ですら日本出身ではなかった。
「幻…？」
「はぁそんなわけないでしょ、ヒョン。まだ手続きを終えてない、とかそんな感じなんじゃないの？」
「いや、それでも遅すぎんか？もう1ヶ月くらいは探してるのに…」
「ユタ、ずっと楽しみにしてたもんね」
SM Rookiesとして発表され、練習生ながらも忙しい日々を送る俺たち。時間を見つけては練習室に閉じこもって、振りを復習したり、あの時のステージはああだった、と意見交換をし合う。
今もまさしく昨晩のステージの反省と復習をドヨン、テヨンとしに来たところだ。
しかしこんな早朝の練習室はじめてきた。
日が昇ったばかり、一番乗りで占領する練習室も悪くない。
欠点はここが半地下なので、あまり陽の光が入らないことだ。けれど、どことなく朝の空気が流れ込んでいる気がして、悪くない。
いつもより朝露に濡れた、湿っぽい空気を吸い込む。
鼻が少しツンとして、なんとなく寂しい気持ちになった。
「もう一生見つからんのかな、後輩…」
「うーん…事務員さんの話だとすぐやめちゃったとも思えないし。在籍してるとは思うんだけどね」
「ヒョン、それより昨日のここの音、どうでした？あんまり綺麗に出なくて」
「ドヨンア、何も心配することなく上手かったやん。これ以上何をよくすると？」
「ユタ、ここの振りもっかい確認していい？」
「あ、そこ俺も気になっとった！」
「ちょっとちゃんとこっちの話も聞いてくださいよ！」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 249人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：tk | 作成日時：2021年11月23日 1時
