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結局、当たり前だけど、キスすることもなく、無事地上について、また乗ろうねって言った雅紀くんに背中を小突いた。
その手をふっと握って、また手を繋いで歩いた。
この人にとって、手を繋ぐって、きっと大したことじゃないんだ。
はぐれないようにとか、誘導とか、そういう感じ？
私は、お友達なんだもん。
帰り、行きたかったショップを覗いて、本気のリサーチをして、おいしいって有名なラーメン屋さんで食べて、帰った。
きっと、最初で最後のデート。
別れ際、ばいばいって手を振ったら、何回も振り返ってばいばいって。
機嫌の悪いサラリーマンに、いちゃつきやがって、みたいな捨て台詞。
きっと、サラリーマンの人は、気付かない。
私が絶望的な気持ちで笑っていることなんて。
あの笑顔は私だけのものにはならない。永遠に。
だって、私。
『ゆーちゃんってね、スーツ系の男の人の格好すきなんだって』
ってリサーチしてるとき、教えてあげたんだ。
『そうなの？いいこと聞いた』って言った。
『スタイルいいし、雅紀くん似合うと思う！こちらなんか、いかがですか？』
『えーとどうしよっかなー』
『こちらのシャツとあわせていただいたら、カジュアルでもご利用いただけますよ』
とか、接客ごっこした。
雅紀くんの恋が、叶いますように。
『Aちゃんの想いが、ちゃんと好きな人に届きますように』
青い、水の世界で、雅紀くんの鼻にかかった優しい声が柔らかく私の心を包んだ。
心から、雅紀くんに幸せになってもらいたいって思った。
帰り道、泣きながら、帰った。
幸せで幸せで、痛くて痛くて、もう限界だと思った。
デートから数日後、雅紀くんがかっこよく着崩した、ジャケットとお洒落なパンツとぴっかぴかの革靴、ショップ店長さんって感じでお店に来たとき。
フロアの女の子が、あんなに素敵だったっけ？ってざわざわした。
ゆーちゃんまでもが、手のひらを返したみたいに。
嬉しそうな、雅紀くん。
逆に、松本さんがたまにうちの店のカジュアルラインの服を着て、外して遊びだして、
二人が仲良く大野さんのお店に行くときは、みんなの目がおしゃれだなーって感じで釘付けになった。
あれから時々、リサーチとか、シミュレーションとか誘われたりしたけど、
あの痛みを繰り返すことが怖くて、逃げてばかりで、
いつの間にか、雅紀くんは私を誘わなくなった。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2014年2月21日 12時
