忘れられない １

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「ああ、そうですね。で。松本に何かご用ですか？」
「急ぎじゃないのでまた来ます」

うーん。何の用だったんだろう。
見送って、ハンギングを直してたら、パートさんが近づいてくる。
「Aさん」
「どうしたの？」
「今のひと、何て？」
小声で聞いてくる。

「店長に用事だって」
「ほらね、」
もう一人のパートさんと顔を見合わせて、言う。
「ん？」
「あのひと絶対にうちの店長に気があるよ！」
「そうなの？」
「今朝も、朝偶然を装って駅から歩いて来てた」
「どうして偶然ってわかるのー？」
笑いながら聞いたら小声で言う。

「郵便局よってから行こうと思ったら駅にあの人がいて、用事済ませたらまだ同じとこにいて、何してんだろって思ってたらね、店長が歩いてきて」
「……うん」
「そしたらあの人走って行って、おはようございます、同じ電車だったんですねとかいって」
パートさん二人が顔を見合わせてぷぷぷって笑う。

「へえ。なんで嘘つくのかな」
「Aさん……」
「え？ストーカーみたいって思われたくないから？」
「……」
あーあ。とか言われる。なんで？

「Aさん、好きな人いないの？」
一瞬、さっきのことが頭をよぎって相葉さんを思い浮かべる。
いい人だなーと思うけど、好きって言われるとなんか違うような。

「うーん」
「こりゃだめだ。でも隣のあのひとよりAさんみたいなぼーっとしてる方が全然いいけどね。いろんな人に媚売ってる感じが私受け付けない」
「わかる、私も」
ぼーっとしてるってなに。パートさんが、しかめっつら。


「でもさっき、櫻井さん素敵ですよねって言ってたから、店長は違うんじゃない？」
「ほらね、やっぱり」
「あ、でも男はああいう感じにころっと騙されるからね……いらっしゃいませー」

店内に、お客さんが入ってきて、ぱっと散らばる。
お客さんが、ニットを広げて見ているのに気付いて、声を掛ける。

「こちらに鏡もございますので、よかったら合わせてみてください」
お客さんが鏡の前まで行って、合わせてる。

「そちら今日入ってきたばかりなのに売れちゃってあと残りが一点ずつなんです」
「へえ」
「雑誌にお色違いが載ってるんですよ」

接客しながら、思い返す。

店長と、櫻井さんの共通点って何？
真逆じゃない？共通点ってイケメンってことくらい？
それなら、相葉さんとか二宮さんの方が。
思い出して、ちょっと、笑った。

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