忘れられない １

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水族館に着いたら人が少なくて閑散としてる。
雅紀くんがふふって笑いながら言う。

「流通業界の人のあるあるだよね、空いてていいけど、イベントは大体土日だから参加できないの」
「イルカショーあるかな？」
「イルカショーはあるよね？」

館内案内を見ようと思っても、手を離さないといけなくて、だから見れなくて。
表紙をじーっと見てたら、雅紀くんが繋いでない方の手で、私の持ってた案内をぺらっと捲った。

二人で、おでこがくっつく距離でフロア案内を覗く。

「海獣コーナーから行かなきゃね？」
繋いだ方の手で、方向を示す。
私、ずっと泣きそうな顔してるかも。
笑わなきゃ。
ずっと笑顔で過ごすの。

雅紀くんの想い出の中の私は、いつも笑顔で。

「カワウソー！」
「えっ！可愛い！」
「こっちは、ほらゴマアザラシー」
「つぶらな瞳！」
テンションが急に上がってくる。
可愛いね、っていいながら必死に見てたら、雅紀くんがじいっと見てくる。

「なにー？」
「皇帝ペンギン、今度見に行こっかー」
「遠いよ！日帰りは無理だよー」
「そっかぁ」
「……あ！出たよ！でたー！カピバラ！」
「うわー！鼻の下ながー！」
「想像より大きいよ？抱っこできない大きさだよ！」
「抱っこしようと思ってた？」
雅紀くんがニコニコ笑って、聞いてくる。

「したかったー。これなら抱っこより、抱きつくって感じだよ、大きいよー！」
「……」
「こっち見ないかなー！こっち見てー！カピたん、カピたーん」
「これじゃあAちゃん見てる方が楽しいよ」
「どういう意味？次ラッコね！」
「はいはいー」

雅紀くんを引っ張ってラッコのところまで行く。
「長い！ながー！」
「ほんとだねー」
「私、トレイに乗るサイズだと思ってた！」
「……トレイっ？」
「いつも大野さんが持ってるトレイ」
「……」
「ダメだよ！これだったら櫻井さんと松本さんの協力も必要だよね？」
「へっ？何が？」
「トレイに乗せるの。３枚か４枚必要」
「Aちゃん、何いってんのー！そんなにおぼんに乗せたいの？……あっ！イルカショー始まるからいそげー」
雅紀くんが走り出す。

楽しい。楽しすぎる。
やっぱり閑散としてるイルカショーに、ぴったり座って見て。
空を飛ぶイルカに二人でいっぱい拍手した。
すげーすげーって喜ぶ雅紀くんの目はキラキラしてる。

イルカと握手したいひとで、雅紀くんが思いきって手を上げたのに選ばれなくて、二人で笑った。

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