忘れられない １

31 ページ32

なんで私を誘ったんだろ、私だよ？間違えてるよね。
何回も、え？ってびっくりしちゃうんだけど。

雅紀くん、私だよ？Aだよ？いいの？
やっぱやーめた、って言われないように、早く帰ろう。そうしよう。
閉店まえから片付け始めて、閉店してすぐ猛ダッシュで帰る。

事務所に鍵を返したりしていたら、櫻井さんが通りかかる。
「あ。A！今から一緒に飲みに……」
「用事があるので無理です、すみません！」
「こらまてー」
走って逃げる。相手してらんない。
だって帰ってやることいっぱい。

服装は？髪型どうしよう。持ち物……おやつ、お弁当とか、
えっとえっと。
まずは、明日の服だよ！
遅刻しないように早く寝なきゃ。

家に帰って、ジェルネイルやり直さなきゃ。
ヘアサロン行く暇はないか……って、気合入りすぎ？
服どうしよう、服。
雅紀くんにあわせたほうがいいよね、きっとカジュアルだし。
……あわわ。何このどきどき。

家に帰って、真剣に鏡を見て、ふにゃあって力が抜けて、
メールまだかなってドキドキして、新着メール問い合わせたりなんかして。
焦って動揺しすぎて、明日の天気とか見たりしてる。

ああ、私、いま絶対変な人。
にやにやしてる。絶対。
だって、大好きな人とデート！


…………誰かさんの、身代わりだけど。

がっくり。
急にやる気なくした。

ネイルやめよかな。
ベージュピンクのままでいいじゃん。
どうせ一日しかできないんだから。
櫻井さんに見つかったら派手なネイルだな！
って注意される。

ふと、目に入ったのは、優しい緑。

『きれーなグリーンだねー！メロンソーダみたいー美味しそう！』

……なんて？ふふ。
やっぱりがんばる。

ネイル中に、雅紀くんからラインが来る。

『皇帝ペンギン見たいんだったら、和歌山か名古屋だけど、どうする？新幹線乗っていく？』

……ええっ！いいよ、そんなの！
『皇帝ペンギン、画像で見るからいいよ！』
思わず、返事。

『明日中止にするってこと？』

……ああ、そうなっちゃうよね。
そだね、私、皇帝ペンギン見たいって言ったんだもん。

あれ？泣きそう。
雅紀くんと行くなら、どこでもいいの。
どこでもいいのに。

涙がじわわって込み上げたら、ポップアップで、またメッセージが来る。

『俺のイルカを見たいって気持ちはどうすんのー！責任とってよねー！待ち合わせ、こっちで決めていい？』

ほっと、力が抜けた。

32→←30

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す