忘れられない １

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次の日の朝礼で、身だしなみのことを、熱く語る櫻井さん。
一生懸命笑いを堪えてたら、ちょっと睨まれる。

「花邑さん、何ですかその顔は」
いきなり注意される。爽やかな顔して腹黒いってニノが言ってたの思い出す。
「すみません」
「わかればよろしい」
ああ、もう。真面目な顔が可笑しくてたまんない。

朝礼が終わったら、雅紀くんが近づいてくる。
「あのさ、ちょっと相談にのってよー」
「なんですか？」
「恋愛相談ー」
「え……」
「Aちゃんの話も聞いてあげるから、お昼一緒にいこうね！」

そう言って、売り場に戻る。
今日は、あの子は、おやすみみたいだ。
ちょっと、ホッとする。

開店準備をしていたら、泉さんが掃除をしながら話しかけてくる。
「そういえば、昨日二宮さんどうしたんですか、かっこよかった」
「え！気付いた？」
「わかりますよー！かっこいいー！葵さんにみせたかったー！」
へえ。わかるんだ。へえ。

「じゃあ、あのぼろぼろの格好の人は誰か知ってる？」
「同じ店の人ですか」
さすが櫻井さん。見事な変身。
ちょっと、笑う。

「もう一人のスーツの人、精鋭画家？絵描きさんですよね」
「画家？」
「多分。お友だち？」
「……私結構すごい人とお友達だったんだって今頃知りました」

本人に聞かなきゃ！

休憩を回して、ふと気付くと、もう１時半。そろそろ私も休憩を、と思ってふと雅紀くんの方をみたら、ゆーちゃんと、話してる。
あれ？休みだったのに？休日出勤？

なに、話してんだろ。
なんとなく、耳をそばだてたら。

お昼一緒に、どう？

って、雅紀くんの声が、聞こえた。

……わたしと、約束したのに。
さっと、血の気がひく。

思い知る。
私は、雅紀くんの、一番にはなれない。


「A、行こ？」

櫻井さんが、大きな声で誘いにくる。
いつもは迷惑だけど、今日ほど、ありがたいと思ったことはない。

「あのね、ききたいことあったの！早く行きましょ！」

わざと雅紀くんに聞こえるように大きな声で言う。
あの子が羨ましそうにチラッと私を見る。

羨ましいのは、こっち。

私は、雅紀くんだったらなんでもいいの。
スーツでも、ボロボロでも、なんでもいい。

たとえ、私のことを愛してくれなくても。
何番目でもいいから。


大野さんのところに行く、
一時間まで奪わないで。

そう言えない代わりに、目の前のジャケットの、裾をつかむ。

「どうした？」
櫻井さんが、ふって笑った。

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