忘れられない １

23 ページ24

「夢がないー」
雅紀くんが、ぶつぶつ。
「夢なんてとうに無いわ」
「いらっしゃい」
大野さんがふわって笑う。

「お願いしまーす」
「うん。ちょっと待ってて」
大野さんが奥の厨房に、入る。

「ニノも恋したらいいのにー」
「恋？」
声がひっくりかえってる。

「あのね、恋なんてね時間と精神力の無駄。お金も無駄。いいことなし」
「夢がないー」
「ほっといて。で、二人は付き合うことになったの？」
「ふたりってどのふたり？」

雅紀くんが不思議そうに聞いて、私も一緒にニノの顔を見る。
二人って、雅紀くんともうひとりは誰？ゆーちゃん？

「うわあ。バカ二人！」
「え？」
「だから、あなた方！付き合うことにしたの？って聞いたの！」
「え？俺と、Aちゃん？」
「そう！手つないでたでしょ！」
「あれは、走ったから……」

ニノが、ちょっとの間、ぐううって時間を、溜めて、溜めて、ほえる。
「お前らは幼稚園児か！」
「幼稚園児？」
「あひゃひゃー」
雅紀くんが笑ってるから、釣られて笑う。

「ああ、やだ。この人たちと話してたら頭の中お花畑になりそう」
「綺麗なの？」
私の質問に、冷たいつめたーい、視線。

「……え？」
「マスターたすけて！」
「ん？どうぞ」
「わ！からあげー！」
雅紀くんが大喜び。

「そう、私店長に唐揚げって聞いて、雅紀くんに言おうと思ったらゆーちゃんって子ぽーって見てて声掛けられなかったんだよー」
「……ん？相葉さんの好きな人ってゆーちゃんって人？」
ニノが聞く。

「んもー！Aちゃん！言っちゃだめ！」
「ゆーちゃん？って、あのこかな」
大野さんが、ん？って顔。

「どの子？」
「Aちゃんの、売り場のとなり？」
「……大野さんって、うちに来たことあるんですか？うっそ」
思わず、びっくりして言う。
百貨店に用事があっても来そうもないというか。

「うん。一回いった。松潤が、携帯忘れていったから届けた」
「へえ」
「ついでにうろうろしてみた。場違いだから帰った」
「場違いじゃないですよ？」
「Ｔシャツにギョサンだったから」
「ギョサン……」
「横の店の、クロワッサンみたいな頭の人、ゆーちゃんって呼ばれてた」
「……クロワッサン」
確かに、クロワッサンみたいな髪の色でくるくるだけど。

「ちがう、コロネだ！チョココロネ」
「コルネ、大好きです！」
「じゃ、こんど作る」
大野さんとニコニコ笑ってたら、ニノがケ！って変な笑い声を出す。

24→←22

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す