忘れられない １

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「いや、この人はね、自分に言い寄ってくる女が嫌いなんだよ」
ニノが、ニヤニヤ笑って、言う。

パンが目の前に置かれて、パンを割ったら、ふわああっていい香り。
「きゃああ、たまんない」
小声で呟いたのを聞かれて、大野さんがにこにこ。
口にほおばったら、鼻に抜ける、美味しい空気。

「……あの」
「ん？」
「好きです……」
「え？」

周りにいたみんなが、えって私の顔を見る。
「たまりません。泣けるくらいすき。美味しい」
「……」
「泣けてきた」
美味しいもの食べて泣けるとか私大丈夫？
新規オープンとかで、疲れてたのかな、久々に勤務時間中に背中に突っ張り棒みたいに入ってた、気合がすとーんって抜けて、ほっとした。

「ここまで感動してくれた子初めてだ」
大野さんがふにゃあって笑う。
「じゃあ、今度からも来ていいよ」

「あ。合格した」
櫻井さんがボソッと呟く。
「試験だったの？」
雅紀くんが、苦笑いしながら聞く。

「美味しそうに食べる人じゃないと準備中には入れないんだよな」
「え？わたしたち合格してたの」
ニノがびっくりしたみたいに、言う。

「うん。女の子で合格したの、すっげ久々」
「前の子は？」
雅紀くんが無邪気に聞く。

「聞くな……」
「翔くんがフラれた元カノ」
大野さんが平然と、言う。

「ええ？今どこにいるのー！」
「……聞くな……」
「結婚して、今どこだ？とおく」
「かわいそー！」
皆がきゃっきゃはしゃいでる。
でもそれどころじゃないの。ジャガイモのポタージュも信じられないくらい美味しいの。

「Aちゃんがガン無視だな」
大野さんが感心したみたいに言って、ニノが肩を揺らして笑いを堪えてる。

「松本さんずるいよ、こっそりお昼こんないいとこに来てたなんて」
「じゃあ、今度から、一人でも来たらいいよ」
「オアシスみつけた！店長に怒られたあとこっそり泣きに来ていいですか」
「いーよ、おいで」
「失恋したあとも、泣きに来ていいですか」
「松潤に？」
「……店長？」

なんでいちいち松本さんの名前が出るの。
「ちがいます！」
「好きな人いるの？片想い？」
雅紀くんが、にこにこしながら、聞いてくる。

「えっと、ちょっと、どうなんだろ、気になる人が、はい」
照れ。本人の前で私、何言ってんだろ。

「え？そうなの？俺もね、昨日ちょっと、運命感じちゃったんだ！」
「……え？」
「俺がね、ダンボールで手を切ったら、絆創膏くれて」

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