忘れられない １

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その、数日後。

朝から体調がよくなくて、でもパートさんも新入社員の子もおやすみで。
もう一人のパートさんは、休憩中。
店長は忙しく色々伝票をチェックしたりしてる。

気分悪い。熱、あるかも。頭ぼーっとする。
騙し騙し、接客してるけど、どうにもこうにも、体が動かない。
しゃがみ込みたい。
でも、そんなわけにはいかない。

従業員は、いわば動くマネキン人形。
だから、ショップの服を可愛く着こなして、おしゃれにして、姿勢よく綺麗に立たないと。
そのために、社員割引で服を買って、売り切れた商品はもう休みの日にしか着れなくて。
給料が、制服代で飛んでいく。
好きだから、できる仕事。

でも。今日は、ちょっと、ダメかも。
薬飲みに行きたいから、ちょっと、５分だけ、バックヤードに行っていいですか？

聞きたいのに、店長は電話中。
その次は顧客がきて、話中。

ああ、もう、無理かも。
ふらっとなって、陳列棚に手をついたら、目測誤って、手ががくん、と落ちる。
転ぶ。っていうか、棚に頭ぶつけちゃう。
覚悟を決めたとき、ぐいっと、私の肩を抱き寄せる、腕。

そのまま、どん、と倒れて、その人の胸の中でぐんにゃり力が、抜ける。
大きな手のひらが、私の額に触れて、わわわ、って言う。
「Aちゃん、すごい熱じゃん」

相葉さん？
目を上げると、相葉さんが見たこともない位、真剣な表情。

「ありがとうございましたー」
接客終わって私の方をチラッとみた松本さんが、一瞬変な顔をして、驚いた顔に、変わる。
「A？」

「潤くん！だめでしょ！ちゃんと見てあげないと！Aちゃん、すごい熱！」
「え？でも」
「朝から変だったの！おかしいなって思ってたらフラフラしてるから。大丈夫？って声かけようとしたらガクンって転びそうになって！だっこしてるんじゃないからね！支えてんの」
「あ、A貰う……」
「潤くん今売り場一人になっちゃうでしょ？おれ医務室、連れてってくるから。ちょっと行って来る」

ふわっと浮き上がる感覚。
あれ？お姫様抱っこ、してくれてる？
重くない？聞きたいのに、聞けない。

相葉さんの、匂い？
甘くて、ちょっとスパイシーで、でも、優しくて
ああ、好きな、香りだ。あったかい。

なぜか、懐かしいみたいな安心感に包まれる。

助けてくれた。
珍しく、怒ってたな。
いつも、お日様みたいな、笑顔なのに。

怒ってくれた。

意識がふうっと遠のいた。

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