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「男に生まれたかった……」
Aがそう言い出して本気で脱力した。
「おいおい……」
「男だったらずっと一緒にいれたよね？」
「A？」
「今日から男になる、どうしたらいいんだろう、調べる」
「いや落ち着け！」
涙をポロポロ溢しながらスマホを探そうと立ち上がろうとして、思わず引き止める。
そういう問題じゃない。
はぁー、とため息がでた。
俺のため息に気づいてAが慌てた。
涙を拭って俺の目を見る。
「ごめんね、大好きだよ櫻井くん」
ジーン、と頭が痺れた。
それは、どういう意味で？
もちろん、ここに恋愛感情はないんだろ？
男になりたいとか言うくらいなんだから友達でいたいとかそういう意味なのはわかってる。
けどさ、好きな『女』が。
俺に、一緒にいたいよ、大好きだよって言って泣いてんだぞ？
俺の溢れたこの想いはどうすればいい？
つい。
衝動的にAの腕を引っ張って、自分の胸の中に閉じ込めた。
自分の心が弾けて壊れてしまわないように、思いっきり抱きしめたらAが小さく、ん、と吐息を漏らす。
ああ、こんな感じだったんだな。
知らなかった。けど多分知ってた。
背の高さがこれで体型がこうだから、抱きしめたら、こんな感じだろうな、というか。
柔らかい。けど折れそう。すっぽりハマっててちょうどいい。
あと、すげー可愛い。やべえ。
俺と離れたくないって泣いてるんだぞ。
何この可愛い生き物。
しかし俺の中ではそろそろ、Aが、こらー！誰の許可もらって抱っこしてるんだ！って、プリプリ怒りだす予定で。
いつでも振り払えるように手の力を緩める俺、ちょっぴり情けない。
にしても抱き心地抜群。抱き枕にしたい。
でもそれはまずい。枕だけで終わらない。
だんだん沈黙に耐えきれなくなってきた。
このままキスしてしまいそう。で、パッチーン！ってビンタ食らって、イテーって涙目になる俺を想像した。
今ならまだ、ごめんごめん、泣いてるAが珍しくて可愛く見えちゃった！ってごまかせるかな。
腕をふわっと緩めたら、Aが体重を俺に全部預けて胸の中にしがみついてきた。
ハッ、と息が止まる。
「もう少しこのまま……今だけでいいから」
Aの泣き声が。
俺の理性をぶっ壊した。
もう無理だ。
「……あーあ……吹雪の中凍死してでも帰るべきだった」
「……え、あ、ごめ……」
Aが慌てて俺の腕の中から抜け出した。
知ってしまったら、知らなかった頃にはもう戻れない。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2021年2月18日 0時
