〇≠無の証明Ⅳ－４ (ページ5)

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「その時、工事はどんな感じだったの？」
「工事を始めようとして、近所に挨拶も済ませて足場の組み立てと、養生シートと防音シートを設置するところまでいった」
「そこまでいったのに中止になったの？」

私が聞いたら松本さんが頷いた。
「そこで作業員にひとり大きな事故があって、これは祟りだ、工事を辞めるべきだ、とか言う人が何人かでた」
「どういう事故？」
「重機にブレーキがきかず男性を轢いて命だけは助かったとか、クレーン車が横転して下敷きになって重体とか」
「……事故で中止になるもんなの……？」
「前例があるからだね」

松本さんがため息を吐いた。
「前例？」
「その五年前もラフタークレーンの暴走や色々事故があって責任者が業務上過失致死に問われたりしてみんな嫌がって辞めるんだよ」
「……なるほど」
「とにかく……5年前もうちではもうできません、と逃げられたパターン」

みんなが黙り込んだ。

「じゃあ、次……その前例になった……2008年の話をしていい？」
松本さんが言う。

「はい」
「当時、基田野さんという、食料の配送なんかをしてる業者さんがいたんだよね、2008年当時40歳独身男性」
「うん」
「工事中の事故が重なって中断、調査なんかでモタモタしているうちに、ある日その彼が突然姿を消した」
「……うん」
「行方不明者として捜索を出されてしばらくして、やっと工事が再始動して、取り壊そうとした倉庫でご遺体となって発見される」
「……」
「もちろん工事は中断。自死と断定される。しかしこんなとこで工事なんてやってらんねぇと責任者が逃げた」
「……わーお」
二宮さんが棒読みでそう言った。

「実はその五年前、つまり2003年にも同じ場所で自死した医者がいたから余計だね」
「え、五年おきに？」
相葉さんが聞き返す。

松本さんがまたため息を吐いた。

「うん、じゃあ次はその話。亡くなった医師は井田蔵先生という内科医。その年の工事はなかなか進んでる」
「階段のところだよね」
「そう。実はそのときは補修工事として入ってる。今でも使えないほど劣化してるのは西側の表の非常階段と出入り口だけだからね」
「うん」
「板張りだった廊下、木枠だった窓、木だった玄関の庇なんかは昭和40年くらいに一度作り直してるんだよ」

松本さんがコーヒーを飲んだ。

「ほんとだ」
櫻井さんがファイルを見た。

「このコピーは誰から？」
「中間さんにこっそり教えてもらった」

松本さんがニーッと笑う。