〇≠無の証明Ⅳ－４ (ページ13)

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「えっと、それで……つまり」

私が聞き返したら差島さんが慌てて言った。

「ああ、本題ですね、すみません」
「いえいえ」
汗をハンカチで拭いてる。可愛い。

「ああそれで。いなくなった金曜の夜、ふたりがヒソヒソ話してたんですよ」
「なんて？」
「邨田くん、もうやめたいって」

櫻井さんが首を傾げる。

「……仕事を？」
「そこだけ聞いたら仕事を辞めたいってことやと思うでしょ？」
「ですよね」
「だから当時は警察にもそう答えたんですけど、今になって思ったらあれ違う意味やったんかな？って……」
「つまり……」
「辞めたいのは仕事やなくて……こういう付き合い辞めたいってことなんかなぁって……」
「……」
「邨田くん、河東さんからお小遣い貰ってご飯とかデート行ったりしてたらしいんです、私もそれ聞いたん後からなんですけど」

お小遣い。
それって。

「警察に、辞めたいって言うてましたよって伝えたら、仕事辞めたかったんやったら失踪もそれが原因かなと思わはるでしょ？」
「そうですね……」
「……けどパワハラとセクハラ両方やったら逃げたくもなりますよねぇ」

差島さんが悲しそうな顔をした。

「もっと話聞いてあげればよかったんですけどねぇ、可哀想なことしたなぁと」
「……そうですか」
「だからもし邨田くんのこと調べはるんやったら河東さんが多分最後に話した人やと思いますんで……」
「ありがとうございます、参考になりました。もちろん、差島さんの名前は出さずにそれとなく河東さんに聞いてみます」
「くれぐれも宜しくお願いします」

差島さんがペコペコ頭を下げて走り去った。

「なぁA」
櫻井さんが私に声をかけてそのまま心で話しかけてきた。

……邨田くんは……もしかしたらもう河東に……
……うん……

二人で旧館を見る。
なんだかとても、胸が痛くなった。

「河東さんを会議室に呼ぶ？」
「……うん」

憂鬱だな。
そう思いながら病院に戻って事務員さんに河東さんとお話がしたいと伝えたら、いません、と返事が来た。

「いない？」
「はい、さっきまでいらしたんですけど、ちょっと用を思い出したとかで出られました」
「……では、お戻りになりましたら会議室の方に来ていただけるようご伝言お願いできますか？」
「もしかしたら明日になるかもしれませんけど、構いませんか？」
「はい。僕たちが探していたことをお伝えいただければ」

事務員さんが申し訳なさそうに謝った。