４ ページ20
「あ、……あぁ、もう来ると思うけど……」
櫻井さんが我に返ったように言う。
櫻井さんの声聞きたくない。
聞かないし、聞かれたくない。
疑われた。
疑われてる。
色んな事件を解決して毎日なんだかんだずっと一緒にいたから、私の言葉は信じてくれると思い込んでた。
私のこと、信じてくれないんだ。
私の心の声を勝手に聞いて勝手に心の中に入ってくるくせに疑うんだ、そっか。
もう嫌だ。
帰りたい。
「……A？」
櫻井さんが私を見下ろした。
「何？」
「……いや……」
櫻井さんの戸惑った顔をちらっと見て二宮さんの肘を掴んだ。
「A、どうしたの」
そりゃそうだ。
だって私、やたら二宮さんにくっついてる。
「あ、……ちょっと、お手洗い行ってくる……」
「ん？ついてく？」
「なんでっ？」
「だって……これ」
そう言いながら私の手を見下ろした。
「あ、ごめ……」
慌てて離す。
何も聞きたくないし、何も聞かれたくない。
外の音を聞くこと集中した。
ざわざわ。
ピンポーン。
102番様、5番の窓口まで起こしください。
今日保険証はお持ちですか。
今日も暑いですねぇ。
でも夕方から雨らしいですよ。
嫌ですねぇ。
ごー、という空調の音。
自動ドアの開く音。
エレベーターのポーンという音。
「音」を聞くことで心の声はシャットアウトできることに初めて気づいた。
自分の気持ちを読まれたくない場合はどうすればいいんだろう。
そうか。
大野さんみたいに。
暑い。べたべたする。ちょっとお腹空いた。
さっき草むらを走ったとき、草で引っ掛けたのか、足に引っかき傷、痛痒い。
視覚、嗅覚、聴覚、触覚、味覚。
五感を集中させたら聞こえない？
「A？」
櫻井さんの声。
黙って立ち上がってトイレに向かう。
突然孤独に襲われる。
私は今まで、なんだかんだ言って他の人たちの言う言葉は真実だと信じて、それを頼りに捜査してきた。
信頼関係がないと、『そんなわけない、嘘だ』って一蹴されて終わるチカラなのに。
誰をどこまで信用していいの。
トイレに行って手を洗う。
鏡越しに背後を見て、ふと思い出す。
鏡越しに美形の男の人と看護師を見たとか言う中間さんの言葉。
背後に写り込んでるということは背後にいるということじゃないの？
もし私が霊なら、背後から姿を見せて振り返って誰もいなくて、ホッとして前を見たら鏡の中から睨んで驚かせるよ。
ホッとした後の恐怖が一番ダメージ食らうもの。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 5455人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
みつき - この章はにのと主人公ちゃんの絡みが好きなんです！これ読みたさにもう何度読んだことか！！ (2020年8月8日 7時) (
レス) id: 6d571bc65d (このIDを非表示/違反報告)
みに - こんにちは！もう無の証明4周目です！このお話本当に大好きで続編やビハインドストーリーも希望します！名前のところがAと表示されて変換出来ない状態なのでお知らせに参りました。お直ししていただけると嬉しいです。 (2020年6月2日 15時) (レス) id: 5d98a5a6f1 (このIDを非表示/違反報告)
nyaruru(プロフ) - 楽しみ過ぎてなかなか読み進めれなかったです。更新待ってました！と喜んでいたら、むか〜し高校生くらいのときに不思議だった話が出てきてびっくり！色の見え方や聞こえ方の話です。家族に話してみても共感されなくって、まさかここで出会えるとは感動しました (2019年11月8日 4時) (レス) id: d437e89628 (このIDを非表示/違反報告)
Chisa(プロフ) - いつも楽しく読ませて頂いてます！ (2019年11月4日 4時) (レス) id: 660ab80a22 (このIDを非表示/違反報告)
ぱん(プロフ) - もう本当すごいです。情景がありありと浮かぶし、実写化してほしい。 (2019年11月2日 20時) (レス) id: 3159ad2d1f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2019年6月19日 17時
