〇≠無の証明Ⅳ－１ (ページ26)

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「私と松本さんは詳しく聞けなかったから教えてほしいんですけど、60年ここを放置してた理由は何なの？」

私の問に櫻井さんが病室に入ってきて答える。

「ここは新しく病院を建てる間も、旧館としてちょこちょこ手直ししつつ開院しておくつもりだったんだ」
「……うん」
「庭の池を埋め立てたり、劣化した壁なんかを塗り直したり。実際途中まではやってる」
「……途中まで？」
「新館ができたあとも、何回かチャレンジしてる。15年くらい前にもさっき出てきた非常口とか、木の階段をコンクリートに変えたり」
「どうして途中でやめるの？」
「工事をするたびに重機が故障したり怪我人がでたり、建設会社側からなんとかしてくれと病院側に言ってくるんだ」
「そんなこと言われても病院は関係ない……」
「いや、その大きな原因は子どもの霊がいるからだと全員が口を揃えて言うらしい」
「子どもの」

松本さんと目を合わせる。

「庭にあった池で子どもが溺死して、その子の霊じゃないか、って話。見た目も似てるとか」
「……うん」
「ノイローゼ気味になって辞めた看護師から聞いた話だと。夜中に少年がおかあさんどこ？って言いながら彷徨うんだってさ」

ああ、これか。
あの尾野さんのお母さんが息子がまだここにいると思った理由。
霊でいいから会いたいの？
そして、彼女は恐らく出入り禁止として病院に入れてくれなかったんだ。

「そこでまぁ、溺死した子どもの親の尾野さんは地元の名士と知り合いだったこともあって、工事中止の申し入れがあった」
「どうして？」
「息子がなくなったのは事故じゃないというか……捜査しなおせ、というね。警察も病院も、この辺一体の地主さんの意見を無視もできずにひとまず工事だけ中止になり」
「……」
「……有耶無耶になったまま、何年か経ったというわけ」

はぁ、とため息を吐く。

「今までは倉庫に使ってるという言い訳してたけど、治安や耐震のことで市からも色々言われるようになり放置もできなくなった」
「……」
「身内に大臣がいるから怖くてクレームは言えないけど、大臣なのにねぇ？という風評被害」

なるほど。
とにかく更地にしてもいいからここをなんとかしたいのね。

なのに。
工事が捗らない。

そこで心霊現象を調べる公安の零課を動かしたら怪我人が出て、それでもなんとかしたいと思った院長と親族が私達に依頼した。

ということか。

はぁ、と一つため息が出た。