〇≠無の証明Ⅳ－１ (ページ23)

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「どうしました？」

私が声をかけると、相葉さんがネズミの死骸を見下ろしていた。

「きゃっ……」
「……なんで？」
相葉さんが不思議そうに周りを見渡す。

「どうしたんですか？」
「このこ、抜け殻だ」
「抜け殻？」
「ちょっと説明するの難しいんだけど……普通の死骸には少し色が残ってるの、残留思念っていうのかな？以前は生きていたっていう色」
「……うん」
「グレーぽい色で縁取られてるんだよ、もしそれが母ネズミだったら子ネズミの悲しい、に近い感情も少し混じって青っぽいグレー」
「……うん」
「けどね、このネズミからは生きてた痕跡が見当たらない。埃の塊かなって思わず蹴りそうになってびっくりして……」
「大野さんがいるからじゃなくて？」
「大野さんがいると色が薄くなるだけで色は消えないの。松潤の霊が見えなくなるっていうのもピントが合わなくなる感じだよね」

「うん」
松本さんも近くに来てネズミの死骸を見下ろした。

「ここ、なんか変……」
「うん」
周りを見渡して、松本さんが何気なく窓の外を見た。

「外には居る」
「ん？ああ、ほんとだ」

二人には何が見えてるのかわからないけど、そそくさと蜘蛛の巣を払いながら大野さんの後ろをついていく。

「階段だ」
奥の方に薄暗い階段があった。
コンクリートに色を塗ってるような階段があって、手すりも頑丈な鉄のものだ。
この辺は比較的新しく工事をして手を加えられたような感じ。

その奥には更に非常口になる扉があった。
よくあるグレーのアルミサッシ製。
中から開けられるようになってる。

ドアを開けてみたら、ムウっとした草いきれと熱気が入ってくる。
すぐ横には螺旋の非常階段があって、出入り口の付近まで、腰くらいまであるセイタカアワダチソウやエノコログサなどの雑草が繁ってる。

あ、あれはアレチヌスビトハギ。つまり、くっつき虫。

庭に続く方の腰くらいまである雑草の中に行こうとした大野さんの腕を慌てて掴む。
「くっつき虫でこの服捨てる！ってことになりますよ！」
「ああ、ほんとだ……あ。こっちにも道あるけど、……狭いか」

ドアを開けると隠れてしまう方の、人がやっとひとり通れるような壁と建物の隙間は雑草が踏みしめられたような跡がある。

「これ」

私と大野さんが二人でしゃがみこむ。

「ゲソ痕取れないだろうけど、これ」
「うん、比較的新しい」
「誰かが裏から入った？」

大野さんと目を合わせて同時に頷いた。