〇≠無の証明Ⅳ－１ (ページ19)

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「え、母は……え？」
「キヨタカさん？」

松本さんが息子に微笑む。

「は、はい……」
「今ご覧頂いたとおり、僕達は少し特殊な仕事を請け負っています、結果はご報告しますから、ご連絡先を伺っていいですか？」
「あ、あ、はい、私は尾野清尚といいます」

そう言って松本さんと名刺の交換をしているのを横目に、病院を見上げる。

「池……」

一瞬視界に広がる、少年の背の高さ程もある雑草。夏の草いきれ。蝉の声。必死に我が子を探すお母さんの不安に胸がぎゅううう、と苦しくなった。

どこにいったの！どこ！あの子はどこ！

「A、大丈夫？顔色悪い」
はっ、と我にかえる。

「大丈夫」
松本さんが私を見下ろして、困ったように微笑んだ。

「ちゃんと水分補給できるもの持って中に入ろうぜ」
「うん」
「あのさ、A、前から一つ言いたいことがあったんだけどね」

松本さんが立ち止まって私をじいっと見つめた。私も立ち止まる。

「……ん？」
「あのさ、俺、たまに可哀想で見てられないような霊を見ることもある」
「うん、前言ってたね、恋人を亡くしたとか」
「そう、そういう見てられない時とか、助けてって俺を見てくる霊にあった時、俺がどうしてるか知ってるよね？」
「……えっと……」
「……霊が見えないようにサングラスとかメガネ掛けてる。何故かわかる？」
「……」
「俺には助けられないから。俺たちが助けられるのは、生きてる人間だけ」

松本さんが真剣な目で私を見下ろしてる。

ミーンミーン。

うるさい蝉の声。
むうっとした熱気。
眩しく照り返すアスファルト。
松本さんの額から、つう、と汗が流れる。

「声をシャットダウンする方法を早く探せ」
「…………松本さん」
「聞こえたとしても、すぐに忘れる方法も見つけろ、早急に」
「……」
「翔さんはできてるんだからAもできるだろ、早くコントロールしたほうがいい」
「……」
「小説を読むように自分の住む世界とは関係ないって割り切る方法を見つけなきゃいけない」
「……どうして」
「……ここは病院だぞ？病の苦しみや大切な人との別れに怯える場所……分かるでしょ」

松本さんが眼鏡をかけた。

ああ、沢山見えてるんだ。
沢山、沢山見えてるんだ。

「松本さんは苦しい？」
「今は大丈夫、わかってくれる皆がいるから」

松本さんがうーん、と伸びをして歩き出す。

「ありがとう」
「礼を言われることじゃない」
松本さんがフフ、と笑った。