愛 ページ33
金曜の昼休み、二宮くんが久々に営業部に顔を出した。
一瞬、目が合った。
話しかけたい。そう思ったのに、二宮くんは知らん顔して、相葉さーん、って言った。
「ちょっとこっち来てニノ」
「なによー」
「あ、ニノちょっと、ダンス確認して！」
「やだよ」
二宮くんが他の部署に顔を出すと、女の子よりも男性にモテてる姿をよく見る。
だからユイちゃんと付き合ってたことも気づかなくて。
ああ、私。今日デートなんです、って嬉しそうにしてて、早く帰っていいよ、って仕事変わってあげたこともあった。内緒ですよ、昨日彼とお泊りだったんです、とか……
頭を抱える。
嫌だ。
二宮くんと？
想像したら、内臓を抉られるような気がする。
イタイ。
「Aちゃん？どうした？大丈夫？」
生田くんが私の肩をとんとん、と叩く。
「あ、ごめん、ちょっと胃が痛くて」
「大丈夫？」
綺麗な顔してるなあ、生田くん。
今まではこんな近くで話しかけられたら飛びあがって、大丈夫！とか冷たい反応してたかも。
でも、ここ数日は全然平気で。
二宮くんで免疫ついたのかなあ。
それとも。これが真実だと思うけど。
二宮くん以外、誰もイケメンにみえてこないんだよ。
綺麗な顔してるのは、わかる。
けど。
「ありがとう」
「熱ある？」
大きな手で私の額に触れた。
「ないと思う……」
「ん、大丈夫」
生田くんがお日様みたいにニッコリ笑って、思わずつられて笑う。
ガタン。椅子が倒れるような音がして全員が一斉に音のした方を見る。
「ニノ、大丈夫？」
「ああ、うん」
二宮くんが起き上がったのを見て、椅子が倒して転んだのは二宮くんだと気づく。
心配になって、思わず立ち上がったら、二宮くんがこっちみた。
「A」
「……」
「やっぱ、いいや」
二宮くんが、はは、ってちょっと笑って出て行った。
「……ニノ」
相葉くんが二宮くんの背中を見送って、私の方を見て、つぶやいた。
「Aちゃん、このままでいいの……？」
「……やだ」
何を話したらいいのかわかんないけど、このままじゃ嫌だ。
ゆっくり話せば、自分の気持ちもハッキリわかる気がする。
営業部を飛び出して、二宮くんを追いかける。
エレベーターの前で二宮くんの背中を見つけた。
「待って」
二宮くんが振り返る。
私をちらっとみて、そのままエレベーターに乗り込んだ。
二宮くんの何の感情のない瞳が、私を金縛りにした。
扉が、閉まる。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 6472人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2017年6月17日 4時
