祝 ページ25
「え、なんで壊すの」
「……」
「壊さないでよ」
二宮くんが、悲しそうな顔をした。
「……」
「いこっか」
ふわりと空気を纏うような微笑みを浮かべて、ゆるりとターンした。
なんだか、スローモーションみたいに見えた。
「二宮くん」
「ん？」
口角をキュッと上げるように微笑む。
「昨日は何時に帰ったの？」
「2時半かな?」
「え！眠くない？二日酔いは？」
「んふ、眠くなったら途中で昼寝していい？」
「いいよ」
二宮くんが、またくすくす笑う。
「どこかで眠れるとこあるかなー。ベッドのあるとこどっかあるかなー、家具屋じゃなくてー静かでーゆっくり話せてー……」
「じゃあ今日は早めに帰る？」
「ランチして家具見てすぐ解散する？」
「……ん」
あ、残念そうな顔しちゃった。
でも。だって。
「……」
「……しんどいもんね。うん」
「……」
「仕方ないよね……」
「オレんち、くる？」
二宮くんが、真剣な目でそう聞いた。
「……お邪魔だよ」
「……」
「眠いのに……私は邪魔だよ」
「邪魔とかじゃなくて……例えばお昼ごはんも、軽いのでいい感じなんだよね、二日酔いで」
「何食べたい？」
「雑炊とか？」
「……作ろうか……？」
「料理……出来そうだよね、そんな感じ」
「うん、結構好き」
二宮くんが、私の手をじーっと見てる。
「うちくる？」
今度は囁き声。
いいの？って聞いたら、二宮くんが、馬鹿だね、って呟いた。
「ん？」
「夏服欲しかったんでしょ」
「二宮くんだって家具見たかったんでしょ」
「そんなの口実」
「……」
「Aともっといっぱい話したかったからそう言っただけだよ」
「……」
「言おうかすっごい迷ったんだけど……A俺のこと誤解してるけど、いいのかな？」
「うん、誤解してた、木下と似てるとか思ってごめんね、全然似てないし」
「違うよ」
二宮くんが、私の手を握って駅のホームに入っていく。
「……二宮くん」
「調理器具はある、けど冷蔵庫の中ビールとお茶しか入ってない」
「お米は？」
「米はある」
「卵とネギと……」
「ないよ」
「自炊しないの？」
二宮くんが電車に乗り込む。
手は掴まれたまま。
「料理、しないの？」
「しない」
「……あれ？なんか……思ってたのと……」
二宮くんが、綺麗な目を外に向けたまま黙ってる。その横顔がハッとするほど男っぽくて、急にゾクリと肌が粟立った。
電車に降りたら、二宮くんがそのまま、駅につながってるスーパーに入っていく。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2017年6月17日 4時
