い ページ21
私の方が先に最寄り駅について、二宮くんにバイバイしようとしたら、二宮くんが一緒に降りてきた。
「……え、二宮くん、電車……」
「一駅くらい歩くよ、送る」
「……でも」
「いいの、星が綺麗だから、歩きたい気分。なんかね、今とっても楽しくていい気分」
「ほんと？」
二人で改札を出て、早足のサラリーマンの背中を見て、またたく間にひと気のなくなった道をゆったり歩く。
二宮くんが空を見上げて、ふーんと鼻歌をうたった。
「なんの歌？」
「秘密」
「……ケチ」
「ふふ」
あ、曲が変わった。
次の曲は知ってる。
「それ知ってるよ、コオロギが止まった、失礼なやつだってとこ、可愛いよね」
「うん」
「可愛い歌」
二宮くんが、君に会いに行くよ、愛してます、好きにしてよ、って歌ってる。
歌ってる二宮くんごと可愛い。
「手繋ぎたい気分だー」
二宮くんがそう言った。
「私しかいないのに困ったな、私でよかったらどうぞ」
「あはは、Aがいい」
二宮くんが左手で私の右手を掴んだ。
私の手を見て、んふ、とわらう。
「柔らかい」
「思ったよりしっかりしてる……もっと華奢だと思ってた」
「そりゃね」
二宮くんが鼻唄を歌ってる。
「歌上手いね……」
「Aも歌ってみてよ」
「私は踊る方が好き」
「ここで踊る？」
「また今度」
手を繋いで帰り道。
あっという間に家についた。
嘘みたいにあっという間。
「ここうちのマンション。もうついちゃった」
「早かった？」
「うん。1分かかんなかったくらい」
「はっや！10分歩いたよ？」
「そんなかかってない、そんなわけない」
「馬鹿だねぇ」
二宮くんが私の頭をポンポン、とした。
「もうちょっと一緒にいたい、しゃべりたい」
「そんなこと言っちゃって、ダメよ、可愛いお馬鹿さん」
「え？」
「はい、おやすみなさい。また明日ね」
二宮くんが可愛く手を振った。
名残惜しく部屋に戻ろうとして、もういちど振り返ったら、二宮くんがまだ見ててくれた。
「また明日ね」
「うん、また明日」
「おやすみ」
「おやすみ」
「今日はありがとう」
「こちらこそ、ほら早く入んなよ」
「うん、じゃあね」
「ん」
「気をつけて帰ってね」
「あは」
「おやすみ」
「……早く帰んないと連れて帰っちゃうぞ」
「……はーい」
今度こそ背を向けてマンションに入ってから振り返って、もう一度手をふる。
二宮くんが、笑った。
もっと一緒にいたい。
素直に、そう思った。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2017年6月17日 4時
