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その日の帰り。
相葉さんには一応、今日は早く終わったので先に帰りますとメッセージを送って、会社を後にした。
一応、気にかけてくれてるかもしれないし。
「ねえ、710号さんのお店ってどこ」
「あれです」
エレベーターを待つ間、窓から大通りを挟んだ向こう側のきれいなビルの一階を指さす。
「ああ、へえ近い」
「はい」
「じゃあ、俺、お前の後、つかず離れず歩いてるから、なんか変な事あったら電話して」
そう言ってちょっと離れてる。
「エレベーターの中くらいいいんじゃないですか」
「知ってた？警備室ってね、このエレベーターの中も見てるからね」
「……え！」
「うん」
そのままちょっと離れて、歩く。
二宮さんが、おつかれ、って言って一瞬離れた。
自販機でコーヒーとか買って調整してるのかな。
私はいつもどおり普通でいいのよね。
駅までの道。
朝ほど声はかけられない。
駅員さんも、夜の人は目も合わない。
そのまま電車に乗り込んだら、二宮さんの姿もちらりと見えた。
電車が最寄り駅について、コンビニに寄る。
「あ、プリンAさん」
大野くんがそう言った。
「なにそのミドルネームみたいなプリン……」
あはあは、ってなんだか気の抜けたみたいな可愛い笑い方をする。
「智いつもの」
「あ、ニノー」
え？振り返ったら二宮さんが。
「ここは平気だよ、信頼してもいいと思う」
大野くんはへらへらって感じで笑った。
「付き合い、ながいもんねー」
「うん、はい、Aさん例のブツ」
「ほら受け取れ」
二宮さんがプリンを顎でしゃくった。
「なんで二宮さんがこんな偉そうに」
「俺も大学の時ここでバイトしてたからね」
二宮さんの言葉に思わず耳を疑う。
「智はオーナーの息子」
なるほど。だからいつもいるんだ。
「ってか、こっち俺の店まかされるかも」
「マジで？つぶれるな」
「つぶれたらプリンやさん開く」
「プリンや」
ぐふ、って変な笑い声が出た。
「じゃあ、またね、ニノ」
「うん、お疲れー」
私が店を出たら、二宮さんがまたちょっと間を開けて歩き出した。
「……」
「……」
いつもの怖い道だ。
今は後ろに二宮さんがいてくれるから……
ちょっとまって？
二宮さん、後ろに居るのよね？
……前に立って動かない、この黒い人影は？
すれ違わないといけないの？
振り返る。
二宮さんの姿は見えない。
仕方ない。歩きだしたら、前の人影が身をひそめた。
誰？
歩調を緩めて警戒する。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2016年12月31日 12時
