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不安に押しつぶされそうになりながら歩いていたら、人の足音が聞こえた。
無意識に、早歩きになる。
怖い。
「……A」
名前を呼ばれた。
ごくりと喉が鳴る。
「……はい」
「どうして逃げるの？俺のこと好きなんでしょ？ねえ」
恐る恐る振り返ったら、全身黒ずくめの男がいた。
こいつだ。
昨日の男は、こいつだ。
後ずさりしたら、駆け寄ってきた。
慌てて逃げる。
腕を掴まれた。
「いやっ！離して！」
「どうして」
肩を掴まれた、その瞬間。
「君、待ちなさい」
男性の声がして、私を掴んだ男にまぶしいライトを浴びせた。
「……っ！」
ライトを浴びた男の顔を見て、気づく。
ああ、本当だ。
制服着ていないし、まじまじ顔をみたことなんかなかったけど。
この人は、警備員の人だ。
ライトから逃れようとかざした手の甲に、傷跡が見えた。
「Aちゃん」
相葉さんが駆け寄ってきて、私を抱き寄せる。
「え？何？」
「こういうものです、彼女嫌がってるように見えたんで、ちょっと話を聞かせてもらっていいですか？」
刑事さんがそう言ったら、刑事さんを突き飛ばして、私の方に近づいてくる。
「いや、来ないで」
「どうして？」
もう一人いた刑事さんが走ってきて、男の手をひねりあげた。
「公務執行妨害で、一緒にきてもらいますね」
「は？」
雅紀くんは何も言わずに、警備員の山本って人を見た。
「え？なんで？相葉くん？」
「……」
「なんで？助けて？ちょっとナニコレ」
警備員の人が、私を雅紀くんを交互に見て、おろおろしてる。
刑事さんに両腕を掴まれて、何が起こってるのかわからないみたいに呆然としてる。
「さ、行きましょうね」
「え？」
「つきまといなんてやっちゃダメですよぉ、山本さん」
「え」
山本って人がやっと事態を飲み込めたみたいで、雅紀くんを見た。
「……まさか……」
「……」
「騙したな！」
え？何が？
「山本くん、俺のAちゃんをつけ回すのもうやめてね」
「は？」
「もう俺のだから」
「はあ？」
「じゃね、バイバイ」
雅紀くんが悲しそうに、笑って言った。
……どういうこと？
刑事さんが、私の方に向かって、また連絡しますんで、と言っていなくなった。
「帰ろっか」
「まって」
「ん？」
「どういうことか、わかるように説明してほしい」
「……」
雅紀くんが、私を見下ろして、困ったみたいに笑う。
……空を見上げたその横顔から、笑顔が剥がれ落ちた。
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作者名：よしの
| 作者ホームページ：
作成日時：2016年12月31日 12時
