〇≠無の証明Ⅲ (ページ46)

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この部屋だ。

一つ深呼吸をする。
またアンナに乗っ取られるかもしれない。

けど。
「紫音くん！」

半分開いた部屋に入ったら、中で紫音くんが写真を手に私を泣きそうな目で見た。

「Aさん」
「写真は持った？逃げるわよ」
「でもまだ……思い出のアルバムとか」
「あなたが死んだら誰がお母さんのことを思い出してあげられるの！まずは生きることを優先しなさい！」
「でも」
「紫音くん！」

熱い。
火が迫ってる？煙も。

紫音くんの腕を掴んだら紫音くんが手を振り払った。
「な！」
振り返ったら、紫音くんの目が緑に光った。

「これはお前がやったのか？」
「え？」
「俺を殺してギルベルトのところへ行くつもりだろう」
「何を言ってるの……」
「俺は、……お前を愛しているのに！」

ギルベルトって誰。
まさか。

「……ロイ？」
私を愛憎こもった目で見る紫音くんがそこにいた。

……ギルベルトはお前を欲しがっていた。
もしかしてお前はもうギルベルトのものになっているのか？
そもそもお前は、俺のアンナなのか？
アンナ！

心の声が頭に響く。

ここで終わらせなければ、ロイはきっと、紫音くんを40で死に至る事故に合わせるかもしれない。

「私を呼んだ？今までの人にも、死の間際にそうやって聞いてきたの？私を探して？」

紫音くん……つまり、ロイの目が大きく見開かれた。

「アンナ……なのか……？」

こういう時に限って。
アンナは私の中に入らない。

「そうよ、あなたの探してるアンナよ、私もあなたを探してたのよ」
「……やっと会えた、ずっと探してたんだ、愛する人みんなに聞いてきた、お前はアンナか？と！」
「……」
「皆、聞こえないんだ、俺の声が。アンナなら、俺の心の声が聞こえたはずなのに！」

そういうことか。
そういうことだったんだ。

他の人に心の声が聞こえるわけなどないんだもの。
そのたびにロイは絶望して次のアンナを探してきたんだ。

ロイの思念が飛んできた。
……ギルベルトを愛してるのか？

「そんなわけないでしょう、アンナが愛してるのは……初めてあった時からロイだけよ」

ロイの目が私を探る。

「忘れたの？湖のほとり。鳥の声を聴いて喜ぶ私に小さな花束をくれた」
「……」
「あの日、馬を走らせて微笑むあなたを見て王子様が迎えに来てくれたと思った」
「……」
「忘れないで。私が愛したのはロイだけよ。何度生まれ変わってもあなたを探すわ」

私の言葉を聞いた途端、紫音くんが、ばたりと倒れた。