〇≠無の証明Ⅲ (ページ38)

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松本さんが苦笑いする。

「そうだね」
「私たちの敵は……本丸は、おそらく……人間ではない」
「Aにやすやすと入り込めるほど力を持つ霊がいるのも問題」
「どうして私なんだろう」
「女だから……なのか……」
「あと、女神さまが、緑の目をもつ異教の者が見てる、って言ってたのはおそらくロイのこと」
「ロイ？」

松本さんが弾かれたように私を見た。

「……うん」
「ロイ？容姿はどんな？」
「深いグリーンがかった美しい瞳で、金色の髪と、口ひげ……年齢は、40歳だったかしら」
「アンナよりだいぶ年上……」
「ああ、そうね、10個離れていたから」
「ねえ、アンナ？」
「はい？」
松本さんが鋭い目で私に聞く。

「ロイは、40歳だった？」
「ええ。40歳になってすぐだったかしら。私が死んだのは、30だったの」
「そう……この家にはたくさんの霊がいるね」
「……ええ」
「……けど、ロイはいないみたいだね」
「……いないわ。ロイの視線は感じるのに」

大野さんが起きて、私を見て、手を伸ばそうとした。
松本さんがそれを手で制する。

「紫音くんを、殺したいと思う？」
「思わない、なぜ？」
「いや。……ところで、Aの中は居心地がいい？」
「違うの、呼ばれるのよ」

突然、激しい違和感に眩暈がした。
これ、私の意志じゃない。

「あ、……何言ってるの私、え？松本さん……」
「……A？」
「うん、え？」
「アンナさん、呼ばれる、って何に？」
「わからない、呼ばれたからここにいるの、そんなつもりなんてないのに」
「……」
「このこも40歳で死んじゃうの？ねえ、助けてあげて？嫌よもう、人が死ぬのを見るのは嫌」
「大丈夫」
「ほんとに？」
「これで、終わらせられるように、俺たちは来たんです」
「……」
「アンナさん、いったん眠ってください、Aが必要なんです……大野さん」

大野さんが、私の肩をぽん、と叩いた。
「あ……」
がくんと力は抜けたけど、今度は意識がはっきりしてる。

「びっくりした、なにこれ」
「どんな感じ？」
「女神さま下ろしたときと同じ。二宮さんが愛おしくて泣いてるのに、なんだそれ！そんなわけない！って冷静に見てる自分がいるのよ！」
「ああ……」

松本さんが苦笑した。
「呪いの力を持つのは、魔女と呼ばれたアンナじゃなくて」
「……」
「呪いの力を発動させてるのは、おそらく……」

「ロイだね、間違いない」
大野さんが言った。
うん。三人でうなづいた。