〇≠無の証明Ⅲ (ページ32)

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魔女狩り(2017/06/06) ページ32

「……大野さん、そばにいてもらっていいですか……」

とうとう自分でもはっきり違和感に気づいて、自ら大野さんのそばに座る。
「ん？おお、ん」

近づいたら、胸の中の深い絶望感みたいな気持ちがすうっと落ち着くような感じがした。

二宮さんが私をじいっと見て、はあ、とため息を吐いた。
「どうしよう、Aこのまま大野さんがいないと生きていけない体になったら」
「二宮さんにはまったく関係ありませんよね」
「だって俺だって大野さんがいないと結婚もできないんだよ」
「……」
「大野さんがいたら女神さまもそんな急には出てこないでしょ、結婚式とか初夜とか横で見ててもらわなきゃ。大変だ」
「……」
「ああ、困ったな、いいよ、って言ってくれる嫁探すの大変だよ」
「頑張って……」
「A俺どう？」
「絶対嫌です」
「俺も嫌だよ、お前でもいいよ、って言ってあげてんのに」
「はあ？」
「はああああ、おれ可哀想……」

「Aさんは素敵じゃないですか……」
紫音くんがぼそりとつぶやいた。

「ありがとう」
笑って答える。
「Aさんみたいな人、いいな……」

「ちょっと少年、君はまだ若い、目を覚ませ」
二宮さんが真剣な顔で言ってる。

大野さんは目を閉じて、眠ってるのかなと思ったら時々、んふって笑ってるから多分起きてる。
松本さんもニヤニヤしながら手帳をペラペラとめくる。

松本さんの手が突然止まった。
「……ん？」
「何？」
「アンナ、……ってのは最初の魔女狩りの人だよな……たしか……」
「……うん」
「旦那さんはロイ」
「うん」
「待ってて」

松本さんが立ち上がって、絵画なんかが置かれてあった書斎に行った。
不安に押しつぶされそうになった時、やっと戻ってきて、私たちに手帳の一文を、とん、と指さした。

「この手帳にさ、追憶、って時々書かれてあるんだけど」
「うん」
「これなんだろうって思ってたんだけど、どうやらアンナの息子の子供、つまり孫がさ、早世する前に小説の原稿を書いてるんだ」
「……うん」
「多分、本にでもしたかったんだろうけど、その気がなくなったのか……本にはならず、原稿が残されてたみたいでさ、それはもう残されていないけど、コピーがあって」
「……」
「この手記をかいた人が翻訳したのが、おそらくこれ」

松本さんが、古びた冊子を私たちに見せた。
題名が達筆で書かれてある。

「『追憶』？」
「翻訳したらそうなったんだろうな」